究極のワイヤレス

ワイヤレスLANはいかが?

オフィス内で LAN を構築する場合、UTP ケーブル(Unshielded Twisted Pair Cable) で Ethernet に接続するのが一般的である。しかし、ケーブリン グが煩雑であったり、特にノートパソコンなどを居室内で持ち運んで使う場合 に設置場所の制約を受ける。ワイヤレス LAN を使えば、机のレイアウトを変 更したり、パソコンを会議室に持ち込んだとしても、ケーブルを接続する必要 はない。どこに行ってもいつもと同じ LAN 環境を利用できて便利である。

ワイヤレス LAN は、電波方式と赤外線方式の2つに分類できる。電波方式 では 2.4GHz 帯域を使ったものが主流だ。無線免許が要らないという手軽さに 加えて、最近では価格も下がってきている。伝送速度が最大 2 Mbps と低速だ が、通信可能距離が 50 メートル程度なので、プリンタの共有などに用途を限 定すれば十分使える。

一方、赤外線方式もオフィス用 LAN として有力である。伝送速度が 10Mbps の製品があり、これは普通の有線 Ethernet (10Base-T など)と同等で ある。これならば、ファイル共有などを利用していた既存 LAN 環境をそのま ま移行しても大丈夫だ。ただし、通信可能距離が数メートル程度と短いため、 天井などにアクセスポイントを適当数配置する必要がある。

いずれの方式にも一長一短あるため、利用形態を考慮する必要がある。し かし、Ethernet ケーブルを床下に埋めなくてよいというメリットは計り知れ ない。今後、より高速な通信方式が確立されると、LAN といえば「ワイヤレス が当たり前」という時代が来るかもしれない。

コンピュータとワイヤレス通信

コンピュータで使われるワイヤレス通信は LAN 以外にもいくつかある。 パソコンと他の情報機器を接続するための IrDA(Infrared Data Association) 規格の赤外線通信インタフェースやワイヤレスマウス/キーボードなどである。

これらの目指すところはワイヤレス LAN とはすこし異なる。これらの機 器の通信可能距離は最大でも数メートル程度と短く、その結果、コンピュータ 本体をあまり離れた位置に置けない。しかし、本当は手に触れる物(マウス、 キーボード)、目に見える物(ディスプレイ)、耳で聴く物(スピーカ)以外は、 できるだけ邪魔にならない場所に置きたいものである。

コンピュータ本体をワイヤレス化する場合に最も大きな障壁はディスプレ イである。液晶モニタのデジタルインタフェース仕様が JEIDA 規格として制 定されたが、例えばこのインタフェースをそのままワイヤレス化すること考え てみよう。データ伝送規格の一つである GVIF (Gibgabit Video Interface) では、24ビット階調のデータを 30 ビットでエンコーディングする。すると、 液晶ディスプレイに 65MHz のクロック周波数で表示する場合には、インタフェー スに要求される速度は 1.95 Gbps になる。この数字は、例えば IrDA で定め ている物理層の最大速度の 4Mbps と比べると非常に大きい。当面は、コンピュー タの本体装置を離れた場所に置くことはあきらめて、省スペース化を図ってゆ くしかなさそうだ。

ホームネットワークもワイヤレス?

家庭内 LAN を構築する人が増えているが、ケーブリングに苦労している事 例が多いのではないだろうか。インターネットアクセスのために家庭の回線を ISDN に変更したケースでも同じだと思うが、一般の家庭では部屋間でケーブ ルを引きまわすのがとても大変である。そこで、部屋間ケーブルを不要にする 方法が必要になる。

一つの方法は、既存のケーブルを流用することである。通常の家庭には電 力線、電話線、TV線などが引かれているので、これらをそのまま LAN で利用 する。いずれも 10Mbps 程度の速度を提供するもので、Ethernet の置き換え を目指している。

ワイヤレスによる方法も検討されている。通常のワイヤレスLAN の他に、 ISDN をワイヤレスにする製品も登場している。ただし、家庭内には遮蔽物が 多いため、これらの製品で家庭の隅々までケーブルレスを実現するのはすこし 無理がある。

これらの方法は、すべてパソコンを中心に考えたホームネットワークだが、 一方で情報家電を中心とした動きもある。IEEE 1394 という有望視されている インタフェースがあるため、LAN を含めたネットワーキングを IEEE 1394 で 統一しようというわけだ。通常の IEEE 1394 はケーブルを用いるが、電波を 用いたワイヤレス 1394 の仕様も検討されている。将来のホームネットワーク は、有線/無線の混在した IEEE 1394 で統合されるかもしれない。

さて、究極のワイヤレスとは?

最後に、本稿のタイトルにもなっている「究極のワイヤレス」について語 ろう。

これまで見てきたように、ワイヤレスと言うと「既存のケーブルを置きか える」というイメージが強い。ワイヤレスによる利便性などの機能面での強化 が主目的となり、速度や品質などは同程度以下となる場合が多い。そこで、速 度や品質を重要視する場合には、どうしても有線による方式を採用せざるを得 ない。

しかし、昨今のネットワーク技術の進展はとても早い。利用可能なデータ 伝送速度は有線/無線ともに着実に高速化しており、品質保証(QoS)などの機能 も次々と実装されている。速度面などでワイヤレス技術が有線の技術を凌駕す ることはないと思うが、あるアプリケーションが要求するネットワーク性能に 限度があるとするとワイヤレスにも勝ち目はある。そして、現時点では有線を 使わざるを得ない場合でも、近い将来、ワイヤレスによる実現が可能であるこ とに注目して欲しい。

アプリケーションを考える上で常にワイヤレスを意識すること、そしてワ イヤレス技術の進展を予測しながら新しいアプリケーションをイメージするこ と。これが「究極」とよばれるワイヤレスを実現する近道だろう。