Media Aesthetics 〜メディア美学〜 第2章「格好から入る」

び-がく【美学】自然・芸術に現れた美の本質・原理について研究する学問。
(旺文社国語辞典より)


メディア美学書


このコーナーでは、情報分野にかかわらず、さまざまな分野でご活躍されている方を
インタビューなどを交えながら紹介していきます。そして、その道で強く持ち続けている
こだわりを私なりの情報メディアの観点から、
毎回一つのメディア美学としてまとめられればと思っています。
森田秀之


第2章「格好から入る」

対談者:太田博満さん(株式会社五藤光学研究所 開発技術者)



映画『スター・ウォーズ』

を満員の劇場の通路に座りながら見たのは、1978年夏、 私(森田)が小学6年生のときだった。
いままで見たこともない恒星間を駆け巡るシーンを、何の疑いもなく 感動するままに受け入れた。

そして、時は流れて1996年春。 創立70周年(当時)を迎えた天体望遠鏡、プラネタリウムのトップメーカ、
五藤光学研究所の次世代プラネタリウム『 バーチャリウム (VIRTUARIUM)』が完成し、その試写会に招待された。

開発段階からその物凄い臨場感について聞かされてはいたのだが、しまった!
試写を見て完全にハマってしまった。『スター・ウォーズ』のシーンのように、 恒星間や惑星の周りを好きなように航行できるなんて。

これまでのプラネタリウムは、地上から見た「空の」バーチャルリアリティ。
それがバーチャリウムでは、宇宙空間に飛び出していける。
ハイエンドグラフィックマシンで創り出されるCG映像を、6台のプロジェクタによって
直径10?20メートルのドームスクリーンに歪みなく映し出す技術は、 同社が開発、特許を有する。


バーチャリウムのドームスクリーンの一部とコンソール画面
(資料提供:五藤光学研究所)

私はこれまでさまざまな全包囲型映像方式を見てきているが、
これほどに継ぎ目が目立たず、無限遠方を感じる方式はいまだ出会えない。

しかも、建築物も映し出すことができる。
ドームスクリーンなのに、観客席からは四角い部屋がきちんと四角く見えるのが不思議だ。

昨年夏の 財団法人天文博物館 五島プラネタリウム(東京・渋谷)での特別プログラム 「バーチャリウムで探る惑星探検」?キトラ古墳から宇宙へ?
では、キトラ古墳石室が3次元CGモデルで再現され、 まだ小型カメラしか入ったことがない石室内部に
観客全員が入って見回すことができた。


キトラ古墳石室内部(正面壁に玄武の姿が見える)
(資料提供:五藤光学研究所)

その天井壁に描かれていた世界最古の天文図から実際の宇宙に移動、 土星の輪をすり抜けて、 太陽系外へ出て行った初めて人工物体の
惑星探査機パイオニアの現在位置まで光のスピードで移動し、
太陽系を振りかえって見たときは、 天文マニアではなくともロマンを感じぜずにはいられなかった。


対談

森田 「太田さんはバーチャリウムをはじめとしたハードウェア開発 に携わってきたわけですけど、 最近、自分でモノを作り出す人が減ってきていますよね。」

太田 「特に、”マニア“の意味が
以前とは違ってきていますよね。いまの”天文マニア”は、 知識だけのカタログ屋さんが結構多い。 考え出したり作ったりすることが伴っていないですよね。
メーカの製品を評価しておしまいとか。」

森田イケてない評論家ですね。
太田さんも学生時代からの自他共に認める天文マニアで、 ついに(!?)五藤光学さんに入社してしまったと聞いていますが。」

太田 「望遠鏡を作ることに熱中していましたね、
レンズの計算をして作っていくんです。 それから、カメラのフィルムフォルダにドライアイスを突っ込んで冷やして
熱雑音を減らし、水素ガスを入れてフィルムの感度を増してやって、 星のいい写真を取って、専門誌やコンクールに送っていました。 高校のときには望遠鏡用のドームを2つ自作して。 まだ実家の方にあるんですけれど。」

森田 「うわ、すごいマニアですね。
私はその手のこだわりにものすごく弱くて、すぐに尊敬してしまいます。」

太田 「いや、カッコから入ってしまうんですよね。
まあ、私もいろんなことやってきているんですけど、 でも、いろいろなことをやって、試してきている人は 年齢に関係なく先輩だと思ってしまいますよね。」

森田 「まったく同感です。カッコいいですよね、そういう人。」

…そうそう、ソフトウェアの分野でもいろいろな収集マニアがいるが、 違法な無断コピーソフトを集める人を “ウェアーズ(Warez)”と言うそうだ。
役に立とうが立つまいがレアで高価な商品を収集し、 仲間から尊敬されることが生き甲斐なんだそうで、こういう人を
『マニアックでカッコいい』などという人がいたらもっと悲しい…


(1999.1/21 五藤光学研究所ロビーにある『宇宙劇場』模型の前で)


カ?ル・ツアイス社(ドイツ)

という会社名は、最近ちょっとこだわりのコンパクトカメラや デジタルビデオカメラにも同社のレンズが使われているので
聞いたことがある方もいると思うが、 1923年にドイツ博物館で世界で初めてプラネタリウムを開発公開した 『老舗』である。

日本のプラネタリウム施設の草分けである五島プラネタリウムでは、 1957年開館以来 ツアイス社製のプラネタリウムが過去2回のオーバーホールで いまでも元気に現役だ。 ブラボー!
そして、昨夏は期間限定で、最新鋭のバーチャリウムとの 世代を越えた競演に感激。
アンコール!!

70年以上も前にツアイスがドームを球面スクリーンとして使ったことで、 空間表現のための器が誕生したのだが、 バーチャリウムをはじめとするデジタルドームシアタが登場するまでは
“プラネタリウム”という一種一品の料理しか盛り付けられてこなかった。

もっといろいろ食べてみたいと思うだが、 残念ながらいまは完全にコンテンツが追いつかない。 料理がに負けている状態なのだ。 日本が世界に誇るバーチャリウムという素晴らしい器に合った
素晴らしい料理(コンテンツ)を是非とも味わってみたい。


対談つづき

森田 「太田さんは最近、ハードウェア開発部門から コンテンツ制作部門に移られたとか。」

太田 「ええ。望遠鏡を作っていたあの時の気持ちに戻ってみたんです。
“星を見たいから、望遠鏡をつくる。いい望遠鏡だから星が見たくなる” という良い形のループを求めて コンテンツ制作の方に回りました。
バーチャリウムは、出力装置として期待どおりの性能が出ているのですが、 入力系はまだまだ試し足りないんです。 入出力を一緒に考えてみようとすると、何したいのか、
コンテンツはどうやって作るのか、というところに行き着きまして。」

森田 「新しいタイプのコンテンツ開発が始まるのですね。」

太田 「バーチャリウムは、開発メンバみんなで作ってきたものです。
五藤光学という会社は、自然と自分が次に何をやるかを考える という社風があるんです。そして、やりたいことがでてくる。
そのためには道具からでも自分で作り出す。 おごって言えば、私たちは”“になっていたいんですよね。」


太田さんの美学

は、『格好』へのこだわりにあると私は思う。 これは装置や作品ばかりではなく、
太田さん自身の仕事の取り組み方にも言える。

格好には、「見た目に整った」という意味のほかに、 「ころあいがよい」「バランスが整った」という意味がある。
バランス“は、動いてみないとわからないものだ。
いろいろなことをやって、試してみて。

格好がなんとか持続できたなら、それはきっともう 『本物』なんだ。



太田さんと私

私が初めて太田さんにお会いしたのは、1997年の春、 バーチャリウム導入第一号施設、八ヶ岳の野辺山天文台 のすぐ隣にある
南牧村農村文化情報交流館を見学した帰りに、 五藤光学研究所山梨工場にバーチャリウム研究開発チームを
訪ねたときだった。 以来、五藤光学さんに訪問するたびに、技術動向や面白い話 をしては盛り上がっている。


参照リンク

株式会社五藤光学研究所

バーチャリウム (VIRTUARIUM)

財団法人天文博物館 五島プラネタリウム

「バーチャリウムで探る惑星探検」?キトラ古墳から宇宙へ?

惑星探査機パイオニア

ツアイス社製のプラネタリウム

南牧村農村文化情報交流館

その他のドームシアタ例1:Evans&Sutherland社『Star
Rider』

その他のドームシアタ例2:Alternate Realities社『VisionDome』