連邦裁判所がとうとうマイクロソフトに仮処分命令を出した。 といっても、司法省が訴えている独占禁止法違反の件ではない。 サン・マイクロシステムズが開発した Java というプログラミング言語に関する訴訟である。 昨年来、マイクロソフトはライセンスに従わずJavaの仕様を勝手に変えた、 と同社から訴えられており、今年11月18日に「製品の修正」を指示する 仮処分命令が下された。この命令は、 Javaの仕様に準拠しないマイクロソフト独自のJava関連製品の販売を禁じ、 90日以内に修正を加えなければならないという厳しいものだ。
ソフトウェアの適切な仕様変更とは
ソフトウェア開発者にとっては、 Javaなどの開発言語やOS(オペレーティングシステム) の仕様が二転三転することはあまり好ましい事態ではない。 仕様が変わる度に新しい技術を学んでいかねばならず、 そのためのコストは馬鹿にならないからである。
ところで, ではソフトウェアの仕様変更は悪いことかというと、そうでもない。 情報技術はまだ発展途上の技術である。 それゆえに日進月歩、いや秒進分歩で新しい技術が生まれている。 当然、それらの技術を組み込むために、OSや言語のバージョンアップは必要である。 適切な仕様変更や機能アップはソフトウェア開発者にとっても歓迎だ。 目先の利益に囚われない、将来を見通した技術指向の仕様拡張が望ましい。 そのような変更は、情報技術全体の発展につながる健全な成長だといえる。
マイクロソフト製Javaの問題点
さて、問題のマイクロソフトのJava独自拡張である。同社は、 主力製品であるウインドウズ上だけで最高の性能が出るようにJavaを変更した。 根本には、それによってJava関連市場を牛耳ることができるとの目論みがあった。 OSメーカーとしては、ごく自然な考え方といえる。 問題は、マイクロソフトが今回行なった仕様変更が、 Javaの重要な特長である “Write Once, Run Anywhere” (= 「ひとたびプログラムを書けば、機種、OSを問わず実行できる」) といった理念を明らかに侵害していた点にある。
サン・マイクロシステムズが提供する本家Java自体もこれまで少しずつ仕様変更 ・拡張を行なってきた。しかし、決して排他的な修正ではなかったため、 現在Javaの関連技術は各社で盛んに開発されている。 また、ライセンスを受けた他社によるJava実行用ソフトウェアも提供され、 そこには実行速度や安定性といった実直な性能競争がある。 マイクロソフトは、Javaを独自に修正してユーザーの囲い込みを図ったが、 市場が判断する前に、司法が待ったをかけた形になった。
良いソフトウェア技術が育つ土壌は何か
ソフトウエアの仕様は、みんなのルールである。 OSや言語ならばプログラムの書きかたを決めるものだし、 ワープロや表計算ならアプリケーション自身の操作方法だ。 ユーザーはお仕着せの仕様に従うしかないのに、 それを一企業の都合で勝手に改悪されてはたまらない。 他者を封じ込めることだけを目的にすれば、 短期的には市場を独占して利益が得られるかもしれない。 しかし、これはアンフェアである。そして、 長い目でみれば情報技術の発展を妨げるものでもある。 今回の判例が、健全なソフトウエア市場の成長を促すことを期待したい。
本文中のリンク・関連リンク:
- Javaのホームページ(英語)
- 仮処分命令発行に関する関連情報(英語)
- マイクロソフト社によるJava契約訴訟情報