活発化するデータの長期保存市場

あらゆるデータが電子化された昨今、ビッグデータの動きとも重なり、データの長期保存ニーズが急激に高まりつつある。今回は、データの長期保存について考えたい。

長期保存されるべきデータとは

では、どのようなデータに対して長期保存ニーズが高まっているのだろうか。

まず、一つ目に挙げられるのが、文化的価値や学術的価値が高いデータである。放送等の映像コンテンツや出版物、気象データ、衛星画像といったものが挙げられる。

サービスの維持管理のため、長期保存が必須なデータもある。建築物や製品の図面や医療データなどであり、これらの中には法令で長期保存が義務付けられているものもある。

また、一般的な企業でも帳簿データは長期保存されている。例えば、法人税法により帳簿書類については7年間の保存が義務付けられており、電子データによる保存も認められている。メールの長期保存を実施している企業も多い。単体では意味をなさないデータも、ビッグデータとして長期的に蓄積し分析すれば価値が出てくるという流れもあり、一般的な企業でも長期保存対象のデータは増えつつある。

これらのデータの長期保存は、電子化があらゆる分野に浸透し、そして初期に電子化されたデータの保存媒体の多くが寿命を迎えつつある今、様々な場所で活発に検討が行われている。

どうやって保存する?

長期保存ニーズの増加に伴い、そのためのソリューションの提供にも多くの企業が活発な動きをみせている。

現在、データの保存媒体として一般的に使われているのは、LTOなどの磁気テープ、BDなどの光ディスク、ハードディスクの主に3つである。どの媒体も一長一短があり、選択が難しい。

最も使われているのは、磁気テープLTOである。売りは低コストと大容量であり、最新のLTO-6では1カートリッジあたり6.25TBもの容量がある。磁気テープというと懐かしい感じがするかもしれないが、まだまだ最有力候補であり、各社が続々と製品・サービスを投入している。ただし、LTOの場合は、媒体の寿命自体は30年(LTO-6)とされているにもかかわらず、書き込みでは1世代下位までの互換性、読み込みでは2世代下位までの互換性しか保証されていない。読み込みできる状態を維持するには10年程度でマイグレーションが必要となる。

光ディスクは、これらの媒体の中でも最も長い寿命50年(Blu-ray Disc)が売りである。しかしながら、BDの容量は1枚50GB程度であり、大容量のデータの保存とコストが課題であった。これに対して、先日、業務用次世代光ディスク規格「Archival Disc」がパナソニックとソニーの2社により発表され、1枚あたり300GBのディスクの開発が発表されている。パナソニック、ソニー各社は、すでに従来の光ディスクを組み合わせて、TB単位まで保存可能なシステムも独自に発売しており、こちらも長期保存市場の獲得に向けて、活発な動きを見せている。

残るハードディスクによる保存は、やはり5年~10年といわれる寿命が問題であり、電気や空調などの運用費用も考えると、長期保存用途というよりは3年~10年程度のバックアップ向きであるといえる。

そして、近年では、サービスとして長期保存を行う事業者も多くでてきている。倉庫業からスタートし電子データの長期保存サービスを提供するワンビシアーカイブズを始めとして、今月、磁気テープを使った長期保管サービスを発表した富士フィルムなど、多くの分野の企業が参入しつつある。特に、Amazonは長期保存用途のクラウドストレージサービスAmazon Glacierの提供を開始しており、磁気テープと比べてもかなりの低価格設定により、従来の磁気テープの置き換えを本気で狙っている。これらのサービスを利用する場合は、電子媒体の寿命の代わりにサービスの継続性が問題となるだろう。

長期保存にあたっては、媒体だけでなく、データの保存形式も問題となる。特定のアプリケーションのファイル形式で保存した場合は、アプリベンダーがソフトの提供をやめてしまえば、読めなくなってしまう可能性がある。オープンなフォーマットでの保存が望ましい。

保存期間とデータ量に応じた適切な選択を

現在、長期保存されるデータの増加に伴い、保存方法の選択肢も増えつつある。実際に長期保存しても、ほぼ使う機会がないものがほとんどではあるが、何が必要なデータかを見極めた上で、適切な方法で長期保存しなければならない。

特にデータの保存すべき期間とデータ量を考慮して、適切な保存方法を選択する必要がある。例えば、30年保存したいデータがあり、コストが少々高くても運用の手間を省きたいのであれば光ディスク、マイグレーションの手間はあるものの、データ量が大きくコストを押さえたいのであれば磁気テープであろう。ただ、100年保存したいということになれば、やはり紙やマイクロフィルムの適性が高く、もし4000年の後世にまで保存したいということであれば、ここでは石板をおすすめすることになる。なお、現在の情報を1000年残す保存媒体の研究も行われており、古代エジプト文明を解き明かす礎となったロゼッタストーンにちなんで、デジタルロゼッタストーンと名付けられ、研究が進められている。

長期保存すべきデータは、そのデータの長期保存に適した方法で保存することを再考すべき時期になりつつある。保存方法の選択肢が増えつつある今、保有するデータの保存戦略が求められている。