自治体における災害対応の改善
東日本大震災の発生以来、様々な災害に対する被害想定や防災に対する基本的な考え方の見直しが進んでいる。災害対策基本法や防災基本計画が見直され、そこでは大規模広域災害への対応がうたわれている。
こうした見直しの一環として、国民を守る直接の担い手である自治体では、数多くの新たな取り組みが行われている。従来の防災無線の放送による避難指示にしても、Twitter などのインターネットメディアや、エリアメールなどの新しい携帯電話サービスの取り込みなどを模索している。
自治体におけるクラウドの利用についても、従来はコスト削減やデータ消失防止が主な目的であったが、大規模広域災害への対応を強化する目的での検討も進められている。実際、発災時に情報システムが使えるかどうかは、効果的な初動活動や自治体職員の負荷にも大きく影響するため、ICT-BCP(情報システムに関する事業継続計画)の検討も進んでいる。
インタークラウドが示す災害に強い自治体システム
クラウドシステム間連携の標準化を目指す民間団体である「グローバルクラウド基盤連携技術フォーラム」(GICTF)では、ホワイトペーパー「クラウド連携を支えるネットワークと技術要件」を公開している。そこでは、災害に対する可用性を保証するユースケースを示しており、クラウド間連携を効果的に行うことで、災害に強い自治体システムが実現可能となる。
具体的には、ある自治体のクラウドシステムが自然災害により被災した場合に、そのシステムを遠隔地の別の複数自治体のクラウドシステムのリソースを活用して、自律的にディザスタリカバリ(DR)を行うというものだ。
こうした仕組みは、現在のクラウドサービスを単に使っただけでは実現できない。現在の技術では、データのバックアップやリソースの確保などを人手でやったり、安全な通信路を確保するために、個別にVPNなどを用いる必要がある。
ホワイトペーパーでは、今後の技術開発の結果、2016年以降には、自律的に連携可能な自治体のクラウドシステムが実現しそうだと予測している。
ソーシャルクラウドが目指す次世代型クラウド
上述したインタークラウドに加えて、CEP(Complex Event Processing, 複合イベント処理)機能、データストア機能、クラウド基盤(PaaS基盤、SaaS基盤等)機能などのクラウド基盤技術の検討が、2011年度の経済産業省調査事業「ソーシャルクラウド基盤技術に関する調査研究」にて行われた。そこでは、自治体システムに限らず、医療、農業などの社会基盤となる分野において、平常時と災害時の双方で有益な「ソーシャルクラウド」環境に必要な技術が検討された。
この調査結果では、インタークラウドなどの各領域における技術開発が必要なことに加えて、下記のような制度・人材などの面での改善の必要性を提言している。
- ソーシャルクラウドに共通するSLA規約の制度化
- 災害発生時のリソース確保優先権の設定
- OSS化/国際化対応によりグローバルで仲間作り
- 災害発生時にリモートから支援する体制作り
- プライバシー保護技術活用による個人情報をベースとした統計データの活用促進
- オープンガバメントに代表される公的データの公開の促進
冒頭に説明したように、自治体における災害対策の取り組みは急ピッチで進んでいる。災害に強い自治体の情報システムを支えるソーシャルクラウドについても、技術開発に加えて、制度・人材面の課題への対応が急務である。