トンネル圏内化で完成するどこでもインターネット

昨年末から今年にかけて、都内の地下鉄のトンネル内でも携帯電話が利用できるようになるというニュースが相次いだ。これが実現すると、都内では限りなく100%に近い割合で「どこでもインターネット」が実現できることになる。今回は、2002年に書いた「どこでもインターネット」でも触れた、列車におけるインターネット接続の続編をお届けする。

地下鉄トンネル内の携帯電話圏内化

地下鉄のトンネル内で携帯電話を使えるようにする動きは急速に活発化している。東急田園都市線渋谷~二子玉川駅間および東急目黒線目黒~洗足駅間では、2011年12月から3G携帯電話が利用可能となっている。2012年3月には東京メトロ南北線本駒込~赤羽岩淵駅間と都営新宿線新宿~九段下駅間でサービス開始予定だ。東京メトロと都営地下鉄では、2012年12月までに全線でサービスを提供する予定なので、今年中には都内の移動時のインターネットアクセスが非常に快適になるだろう。

地下鉄のトンネル内での携帯電話利用ニーズは、最近になって非常に高まっている。音声通話であれば列車内での通話はマナーの問題から遠慮することになっているし、電子メールについては書きためたものをホームに着いたときにまとめて送るということができる。しかし常時接続が前提のスマートフォンでは、走行中のトンネル内でもネットに接続できることが特に求められるわけだ。

トンネル圏内化の手法

トンネル内を圏内化する手法はいくつかある。新幹線のように高速走行する列車の場合、普通の基地局を使うとハンドオーバーが頻繁に起こってしまい、安定した通信は難しい。このため、現行の新幹線のインターネット接続サービスでは、同軸漏洩ケーブルを使う方式がとられている。ただし、同軸漏洩ケーブル方式は工事にコストがかかり、通信速度もそれほど速くないという欠点がある。

一方、都内の地下鉄であればトンネル内をそれほど高速に走行しないため、普通の基地局を設置することで実現可能だろう。ただし、トンネル内の構造や列車走行時のハンドオーバーを考えると、それなりの数の基地局をトンネル内に設置する必要がある。これまではそのコストが課題でサービス開始が難しかったのだが、スマートフォンブームにより、携帯電話各社がやっと重い腰をあげたということだろう。

トンネル圏内化の功罪

地下鉄のトンネル内が圏内化すると、上述したようにスマートフォンを常時接続で使えるようになるが、利点はそれだけではない。携帯電話の電源をオンにした状態で圏外になると、通常よりもバッテリーを早く消耗してしまう。これは通信可能な基地局を探すために、携帯電話の電波の送信出力が最大に近い状態になるためだ。バッテリー稼働時間を延命させる方法として、地下鉄では電源をオフにしたり機内モードにするというノウハウは、スマートフォンユーザにはよく知られている。今後は、地下鉄でスマートフォンの電源をオフにしなくても、バッテリーの消費が抑えられるだろう。

利用者にとっては非常にありがたいトンネル圏内化だが、携帯電話事業者にとっては頭の痛い問題でもある。スマートフォンの普及により携帯電話網上のトラフィックが急速に増加しており、それを一因とする大規模な通信障害事故が頻発している。スマートフォンの常時接続時間が増えることで、トラフィック増大に拍車がかかりかねない。現在は多くのスマートフォンユーザが定額料金で利用しているが、携帯電話事業者に過大な負担をかけ過ぎると、定額制サービスに対する制限が行われたり、従量制課金に退行する可能性もある。トンネル内圏内化の動きに合わせて、トラフィック増大を適切にコントロールする取り組みが必要である。