クラウド環境は安全か

突然に対応を迫られた計画停電により自社内の情報システムを止めるなど対応に追われたケースも多いだろう。一般的に災害等による大規模なシステム障害に対する措置は、DR(Disaster Recovery)と呼ばれている。地理的に異なる場所にバックアップを用意しておくといったことが一般的であるものの、そのレベルは様々だ。例えば、単純にデータをコピーしているだけの場合もあれば、リアルタイムにデータを更新している場合もある。地震や津波、山火事、台風といった災害の影響による物理的な喪失や破損、あるいはそれらに伴った長時間停電により、現地でシステムが稼動できないケースの場合には、別の地域にシステムでの運用ができるようになっていない限りは短時間での復旧は困難である。

災害だけでなく、その後の環境変化に伴い、情報システムを運用するにあたり、コスト、性能、安全性等を考慮して、システムをどこにおいて誰がどのレベルで運用すべきなのかを見直すきっかけになっている。このような問題の解決策として、クラウドコンピューティングがこれまで以上に注目されている。

自治体ユーザの実態

民間企業だけではなく、自治体が有する情報システムも計画停電の影響を大きく受けた。市町村自治体では、住民に関する情報を有していることから、外部にシステムを出すことは法律的にも容易ではなく、多くの自治体では庁内でシステムを運営している。そのため、自家発電を備えていない自治体では、計画停電の時間になると庁内のシステムも止めることになり、停電している中、受付や書類発行業務が手作業で行われたことが報道されたことは記憶に新しい。

そこで、システムをデータセンターに預けることやクラウドで実現すべきではないかという指摘もある。実際、IPAの調査によると、各地方自治体が利用する情報システムはサービス化が進んでいるという調査結果が公表されている。住民や税金に関する基幹系業務はやはり自前で運用したいというニーズも高いのも事実である。しかしながら、システムを構築・提供するベンダやSI事業者側に立てば、コストや売上を考慮するとユーザ数が限られた自治体に対して個別に提供することが難しいと考えており、基幹業務もサービス化したいというのが本音だろう。今後、DRも考慮して大規模自治体が独自にシステム構築するケースと小規模自治体が構築するよりも安価でサービスを利用するケースの二極化が進むと考えられる。ただし、いずれの場合も自庁内でシステム運用することは便利ではあるが、必ずしも安全ではないことが認識された。

計画停電への対応

企業のシステムも自治体同様に自社内で運用しているシステムが多数ある。そのため、計画停電時には、システムも社内のPCも稼動できずに、業務停止に追い込まれたケースも多い。また、停電からの復旧についても時間がかかる。単純にシステムの再起動にかかる時間だけではなく、物理的なスイッチを入れたりと手作業で行わないといけないケースが多いため、時間も手間もかかる。一方では、契約後短時間で利用可能になるクラウドサービスの利点を生かして、急遽社内にあるシステムを移行させたケースもあっただろう。

DRの準備として、外部のデータセンタやプライベートクラウドサービスにシステムを集約、分散していた企業においても、停電発生の時間とバックアップサイトでのシステム機能復旧にかかる時間や手間を考慮したり、停電により社内のネットワークが機能しなくなり、停電の回復を待つ方が簡単だったケースもあるようだ。

クラウド基盤が問題に

このようにクラウドが注目される中、パブリッククラウドとして知られるアマゾンのAmazon Web Service(AWS)の米国のデータセンタのストレージ機能の不具合が発生したことで、同社のクラウドサービスを利用した他のサイトが停止するなどの大きな影響が出た。

その一方で、ユーザ数が数億人とも言われるFacebookでは、データセンタのハードウェア仕様を情報公開することで、安価に調達、運用できるような仕組みを推し進めている。これまで大規模なデータセンタの運用技術は社外秘としてあまり公開されなかった。こうした取り組みは、IaaSなどクラウド基盤がコモディティ化されて、今まで以上に安価になってしまう可能性がある。そうなると、量を稼げる事業者以外に設備投資する事業者が減り、クラウド基盤の選択肢が少なくなり、競争も生まれにくくなることや基盤提供の停止によるサービス提供者にとっても死活問題につながる可能性がある。

クラウドサービスは、通信ネットワークや電力といった物理的なインフラも含めて、クラウド基盤にも依存しているという影が顕在化したものの、技術的にも発展途上であることを考慮して選択すべきであろう。