前回に続き震災とICTについて考えてみたい。震災翌日からICT企業は続々と通信やクラウド環境などのインフラや災害用サービスの無償提供を開始した。CSRの一環と捉えられるが、それ以上の効果もありそうだ。
広範囲の情報把握に役立つLBS
災害用サービスではGPSによる位置情報を活用したLBSやクラウドを活用したサービスが目立つ。今回の震災は関東から東北の広範囲にわたって被害をもたらした。安否確認や避難所所在地、通行可能な道路などの情報の提供にLBS (位置情報サービス:Location-Based Services)が活用されている。
Googleはホンダと協力し、自動車の通行実績を提示するサービスを提供している。ホンダ車に搭載されたカーナビのGPSが取得した位置情報をGoogleのサーバに蓄積し、地図上にプロットする。車が通行した跡がある道路はすなわち通行可能であると判断できる。コロプラは携帯電話のGPS機能をもとにして、被災地の電波状況を確認できるサービスを提供している。いずれも多数の利用者からの情報を活用したサービスであるとともに、既存サービスの利用者には一切負担をかけない点が特徴である。
外部サイトとのマッシュアップサービスもある。sinsai.infoは自由に利用できる地図の作成を行っているOpenStreetMap Japanが提供し、安否情報からスーパーの入荷状況まで、位置情報付きでTwitterにつぶやかれた地震関連の情報を地図上に提示する。一部の情報についてはボランティアが事実かどうかの確認も行っている。OpenStreetMapにはNTTデータの社員が以前から私的に関与していることから、同社も協力を表明している。
今回の震災では自治体も大きな被害を受けており、これら民間サービスが迅速かつ広範囲な情報を提供することは、自治体の負担軽減にも役立っていると考えられる。通信不可能な地域の情報は得られないという欠点はあるが、逆にそのような地域こそ救助が必要な地域と捉えることができる。
早期に立ち上げられた災害用クラウドサービス
クラウドを活用した災害用サービスとしては、日立情報システムズが被災者支援システムを、マイクロソフトとページワンが震災復興支援システムの無償提供を開始した。前者は阪神・淡路大震災後に西宮市が開発したシステムで地方自治情報センター(LASDEC)が管理してきた。今回の震災を機にオープンソースとしての公開も始まった。後者はマイクロソフトのクラウド型CRMサービスをもとにして震災後に構築したサービスである。
これらのサービスの利用者は主に自治体や援助を行うNPO等である。被災地ではサーバの運用もままならず、また、甚大な被害を表計算ソフトや台帳で管理することは困難と考えられ、このようなサービスのニーズは高いと考えられる。平時には不要で災害時のみ利用されるため、クラウドとの相性も良い。ただし、自治体やNPOの方々がシステムをすぐに使いこなせるようになるかという点は懸念される。
慣習からの脱却が復興につながる
震災関連サービスは本稿を執筆している最中にも次々と提供されている。おそらく活発に利用されているサービスもあれば、残念ながらそうでないサービスもあるだろう。それでも、サービス提供スピードや各社の対応には驚かされる。ベンチャー企業だけでなく、大企業や独立行政法人も新規サービス提供、オープンソース化、社員の私的活動への支援等を迅速に判断・実施している。平時では考えられないことである。
今回の震災が極めて大規模な災害であることがそうさせたのは間違いない。しかし、落ち着きを取り戻した後でもこのような動きは継続していきたい。従来の慣習や手順に囚われず、人々が求めるサービスを柔軟に考え迅速に提供して行くことが、日本企業の競争力強化や再生につながると期待している。
本文中のリンク・関連リンク:
- 自動車・通行実績情報マップ (Google Crisis Response)
- 位置登録実績MAP (株式会社コロプラ)
- sinsai.info (OpenStreetMap Japan)
- 被災者支援システム (日立情報システムズ)
- 震災復興支援システム (マイクロソフト、ページワン)