アドレスポリシーとIPv6普及の温度差

2005年9月6日〜9日にベトナム・ハノイで開催された第20回 APNIC Open Policy Meetingに参加してきた。この会議では毎回、アジア・太平洋地域での IP アドレスに関する諸問題を議論しているが、今回の目玉は IPv6 の「/56提案」であった。今回はその解説とともに、実際にIPv6が直面している問題との温度差について話す。

/56提案とは

IPv6 アドレスは、IPv4 とは異なり、全体で128ビット、サブネットは64ビット固定である。この IPv6 のアドレス割り当て方法としては、これまで /128, /64, /48 の3種類が使われてきた。このスラッシュ(/)を使った表記になじみのない方にはわかりにくいかもしれないが、例えば /128 ならば IPv6アドレス1個、/64 ならば 264個、/48 ならば 280個が使えることになる。さらにいうならば、/64 ならばサブネットを1個、/48 ならばサブネットを 216個が使える。実社会での IPv6 の利用が諸外国よりも進んでいる日本では、このルールに従って、通常は一般家庭にも企業にも /48 でアドレスを割り当ててきた。

これに対して今回 APNIC Meeting で提案されたものは、「SOHO のようにそれほどアドレス空間が要らないところには /48 ではなく 使えるサブネットが 28個の /56 で割り当てよう」というものだ。その根拠としては、今のまま /48 でアドレスを割り当て続けていると約60年でアドレスが足りなくなってしまうということがあげられていた。/48 と /56 を使い分けることにより、IPv6 アドレスの寿命を100年から600年くらいまで引き延ばせるらしい。

この問題に対して、「すでに /48 で割り当ててしまった地域での /56 への移行コストはどうするのだ」「600年先のことを考える必要はない。60年で十分だ」といった意見が出され、議論は予定の20分を大きく超えて1時間ほどに及んだ。結局この提案は承認されることなく次回に持ち越された。

/56提案とIPv6普及との温度差

APNIC Meeting は IP アドレスに関するポリシーを決めてゆく会議なので、/56 提案などが提出されることは十分に理解できる。しかし、IPv6 普及に日頃から頭を悩ましている人々からすると、現状の IPv6 が抱えている諸問題からかなり外れたところで議論をしているという感じがしてならないだろう。

確かに IPv6 の寿命を延ばすことは大切かもしれないが、それよりも IPv6 がもっと普及しなければ、そのような議論は無駄に終わるのではないか。実際、数年前には IPv4 はいずれ IPv6 にすべて置き換えられるという論調であったものが、今では IPv4 と IPv6 の棲み分けといった話をよく聞く。それほどに、 IPv6 の有効な使い道が見いだし切れていないのが現状だと言わざるを得ない。

携帯電話がすべて IP 化されたり、家電品や交通システムなどの全ての機器に IP アドレスが付けられる近未来世界を想像すると、IPv6 は必要不可欠な技術であり、IPv4 は行き詰まると筆者は考えている。その大切な IPv6 を早期に普及させるためには、APNIC のようなアドレス管理組織でも、これまで以上に IPv6 普及に向けた方策を考えてゆく必要がある。