アテネオリンピック需要で多くの地上デジタル放送対応機器が各社から発表され、電気店でもいつになくセールスに熱が入っていた。売れ行きも上々だったのであろう。
ただ、可視聴地域がまだ限定されているためか、地上デジタル放送に対する話題はあまり盛り上がっていない。従って、地上デジタル放送から本格的に導入されたDRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)が謳う「コピーワンス(1回のみ複製可能)」が実はコピーできないと言うこともあまり知られていない。
デジタル放送のコピーワンスとは
「コピーワンス」と聞いて、録画したコンテンツを1回に限りコピーできると思い込みがちであるが、実はそうではない。我が国のデジタル放送にて採用されたコピーワンス制限は、放送されたコンテンツをユーザ側で記録する行為をコンテンツのコピーとして捉えるので、例えばハードディスクレコーダに録画した時点で許された1回限りのコピーを使い果たしてしまっているのである。よって、ハードディスクレコーダに取り溜めた番組をDVDなどにコピーすることは出来ないのである。
※コピーワンスを「1回だけ録画可能」と訳しているところもある。その代わりに我々ユーザに許されているのはムーブと呼ばれる操作であり、ムーブを行うとハードディスクレコーダの番組をDVDに焼ける代わりに元のハードディスクレコーダ上の番組が消されるのである。元のコンテンツがこの操作で削除されてしまうので、やり直しの効かない編集行為なのである。機器によってはムーブの最中にCMカットなどのビデオ編集を行えることも出来るが、これもやり直しが効かないので、気軽に使える機能とは言えない。
日本独自のコピーワンス
実はこのコピーワンス制限は我が国特有のものなのである。デジタル放送を視聴するためにはB-CASカードが必須と思い込んでいるが、そうではなく、アメリカなどではデジタル放送に何のプロテクトもかかっていない。当然アメリカにはB-CASカードなるものはない。もっとも、アメリカの場合はデジタル放送普及のために当初はプロテクト無しにして、普及した後にプロテクトをかけるのではないかとも噂されているが。
我が国のDRMは当初からプロテクトフリーを許すこともなく、コピー制限を1回のみとした、ユーザの視点からはとても厳しい内容となっている。
※BSデジタルは当初プロテクトフリーだったが、普及世帯数が微々たるものであったし、当時はデジタルコピー技術も未熟であった。TVパソコンでテレビが見られない?
これから普及していくであろう地上デジタル放送だが、視聴者が増えることでコピーワンス制限に関連する混乱が広がっていくことが予想される。機器毎にムーブの方法や制限が微妙に異なっていたり、ムーブ可能なDVDメディアが限られていたり、これまでに無かった難しさがある。
そしてもっともユーザにインパクトがありそうなのが、現在のTVパソコンが一切デジタル放送のコピーワンス録画に対応していないこと(一部機種は視聴のみ可能)である。TVパソコンでテレビが見られないと言うのはユーザを欺いているとしか言いようが無い。
アメリカではそろそろパソコンでハイビジョン(HD)コンテンツのビデオ編集ができるようになってきていると言うのに、日本では視聴すらままならないと言う状況はこれからのパソコン市場に多大な影響を及ぼす可能性がある。ただでさえ低価格化にあえいでいる和製パソコンにはさらなる試練になるだろう。
放送業界は再考を
これだけ縛りのきついDRMを導入されてしまってはユーザは手も足も出ない。日本固有の実装なだけに、海外のシステムがそうやすやすと国内市場に参入してくるとも思えない。
しかし、歴史を振り返ってみればこのような「鎖国」制度は国内産業を衰退させ、やがて諸外国のより優れたシステムによって打破され、国内市場は輸入品に制圧されてしまうであろう。そして、これから立ち上がらんとするHDコンテンツ市場の推進・拡大の足かせになり、ここでも諸外国にリードを許してしまうのではないか。
そうなる前になんとか、国内で解決したいものである。例えば、もう少しDRM制限を緩められないだろうか。コピー回数の制限を3回程度に緩和するとか、DVDへの記録はコピー回数としてカウントしないとか、全てにコピーワンスプロテクトをかけるのではなくコンテンツによってプロテクト強度を可変にするとか。開放することによって得られる利益をみすみす捨てるのはあまりにももったいない。
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