2004年5月31日、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)大手町ビルの分電盤が故障 し、OCNやPHSデータ通信サービス@FreeDなどのインターネット関連サービスが、 ほぼ半日間停止するなど、同社ユーザに大きな影響を与えた。また、この事件は、 多くのメディアで取り上げられると共に、一部で昔から懸念されていた現代社会 の脆弱性を実証したという意味で、専門家の注目を集めることになった。
インターネット=大手町?
すでに周知の事実となってしまったが、日本のインターネットの結節点として大 手町は代替不可能な地位を占めている。例えば、NTT Com大手町ビルには、重要 なのインターネットエクスチェンジ(IX)が設置されている。IXを簡単に説明すれ ば、インターネットサービスプロバイダ(ISP)の情報やデータをやり取りするた めの施設であり、これ無しには、インターネットは成立しないといっても過言で はない。実は大手町には、他にも同様に極めて重要な機能を持つ施設が置かれて いる。
「大手町の機能が失われたら…」というのは、以前より専門家の悪夢であった。 おそらく、本格的な被害想定シナリオにすら入ってなかったのではないだろうか。 なぜならば、大手町が何からの理由で機能が停止したら、日本のインターネット 通信インフラの相当部分がダウンし、しかも代替はできないからである。
しばしば、「インターネット技術は核戦争でも破壊されないネットワークを構築 するための技術」だ、という事が言われる。しかし、現代のインターネットは、 効率性を重視し、あまり抗甚性を重視していないのだ。
※ NTT Com大手町ビルは偶然にも弊社の隣のビルである
事件の本質
ここで私が述べたいのは、今回の事件における同社の責任云々ではない事は明記 しておく必要がある。なぜならば、分電盤の故障は、ある確率で必ず発生するも のだからだ。むしろ問題は、インターネットが落ちたときの被害の影響範囲がど んどん判らなくなっている事と、その単一障害点が大手町になりかねない、とい う二点である。
影響範囲の問題とは、インターネットが落ちると、ホームページが見えなくなる だけではすまない、ということだ。インターネットの上で行われる経済活動の規 模が大きくなってきたというだけに留まらず、予想もしなかった影響が出てくる 可能性がある。例えば、今回の事件でも、同社のユーザで、社内の内線電話が使 えなくなった事例や、本支社間の通信が阻害された事例が報告されている。これ は、電話といえども、インターネット技術を用いたIP電話に統合されていく、と いう背景がある。近い将来(あるいは既に)、専用線と思っている通信回線が、実 はインターネット上のVPNだった、という事も起こりうる。
もし、専用線もインターネット上で実現されるようになったら(技術的にインタ ーネット技術が用いられる事はほぼ間違いない)、「専用線だから安心だ」とい われてきた常識が通用しなくなる。一例を挙げれば、金融・運輸などの業務は専 用線に大きく依存しており、しかもその安全性は、「専用線」を用いていること で担保されている。
事件は会議室で起こるんじゃない、大手町でおこるんだ!?
見てきたように、インターネットが引き受けなければならない社会的リスクは、 知らず知らずのうちに大きくなってきている。しかも、その単一障害点が大手町 界隈に集中しているのだ。
したがって、今後早急になすべき検討は、インターネットは本当はどこまで使わ れているのかを明らかにし、その影響の及ぶ範囲は何かを明らかにすると共に、 大手町の機能を分散させることの可能性と、その費用対効果の検証であろう。