チャーチとチューリングの提唱:AI版
いかなる種類の心理過程でもフーと同じ力を持つ言語、 すなわち、すべての部分再帰的関数をプログラムできる言語にもとづく コンピュータ・プログラムによって模倣できる。ホフスタッター「ゲーデル・エッシャー・バッハ」白陽社, 1985.
続々登場する人工対話サービス
人工知能(AI)搭載サーバがタレントに代わって 電子メールを返信するサービス 「プロデュースフォーユー」が始まった。 例えば、藤崎奈々子さんにファンレターを送ると、 ちゃんと文章の意味を解析して、 藤崎風の口調や言い回しで返事をくれるらしい。 タレントが元気づけてくれるメールが届く「ヒーリング・メール」や 悩みに答えてくれる「アドバイス・ファンクション」も計画中とか。
プロバイダー最大手のニフティも人工チャット友達サービス 「チャッとも」をスタートした。 友達はシャイなブタ、甘えん坊のイヌ、生意気なネコの三匹。 会話の内容を記憶しながらキャラクタ自身も成長してゆくという。
コンピュータと会話するといえば、 音声入力という画期的なインタフェースで 一世を風靡した人面魚 「シーマン」が記憶に新しい。 名前や誕生日、好きな食べ物などごく基本的なユーザ情報を聞き出し、 ふてくされたオヤジ口調で嫌味ったらしく話しかけてくる雰囲気が成功の鍵だった。 いずれも会話の質というよりもキャラクタの面白さがウリのサービスだ。
歴史的人工無脳「イライザ」
このような対話プログラムは最近になって実現したという訳ではない。 1980年代から90年代初頭にかけて 「人工無脳」 と呼ばれる 数多くのプログラムが開発された。 その多くはユーザの発言を覚えて繰り返したり、 乱数によってしゃべる内容を選ぶだけの簡単なプログラムである。 支離滅裂なようで、 ときどきハッとさせられる秀逸な受け答えをすることもある。 それが意外に人間臭くておかしいのだから不思議だ。
人工無脳は1966年にMITの人工知能研究者が開発したイライザ (ELIZA) にその源流がある。 精神カウンセリングの手法を取り入れ、 相手の言葉を反復して質問することで会話を続ける対話プログラムだった。 ELIZA と会話した多くの人々の心の中に、 “ELIZA は自分たちを理解してくれた”という、 驚くべき幻想を作り上げたという。 機械が思考できるかを判定するチューリングテストに好成績を収め、 人工知能の実現も近いと錯覚させた罪なプログラムでもある。 最近、現代版 ELIZA のAOLiza が AOL のチャットに現れ、またまた人々を驚嘆と困惑に陥れているらしい。
エンターテイメントから始まる
人工無脳はソニーのロボット犬 AIBO に似ている。 家庭用ロボットは何十年も実用化できなかった。 それなのに何の役にも立たないAIBOには、 25万円もはたいて数万人が競って手にいれようとした。
人工知能をベースにした対話プログラムも、1980年代に盛んに研究されたが、 結局モノにはならなかった。 ところが当時色もの扱いだった人工無脳が 21世紀最初の実用サービスとして甦ったのである。
もちろんプロデュースフォーユーもシーマンも、 ただオウム返しするだけの人工無脳ではない。 ユーザの会話を自然言語解析し、ある程度内容を理解した上で答えを返す。 しかし、その意図するところは、かつて人工知能が目指したように、 ユーザの質問に正しく答えることではない。 あくまでユーザを楽しませることだ。
人工無脳のゆく先は
AIBOもやがては役立つ家庭用ロボットに進化すると考えている。 朝起きれば新聞を取ってきて、昼はゴミ出し、床掃除、夜は番犬、 一日中働き者の小さなメイドさんになるのではないか。 もっともそれは10年以上先の話であろうが。 そうゆう意味では AIBO も ELIZA と同じく、 家庭用ロボットの実現も近いと錯覚させた罪なオモチャというところかもしれない。
人工無脳も、いずれ楽しい会話を通じて子供に知識を教えるようになるだろう。 悩める現代人には聞き上手の癒し上手にと、役立つプログラムに進化するはずだ。 やや手前味噌で申し訳ないが、「ぼっとママ」 という人工無脳チャットがある。 楽しい会話の中に不登校や障害児についてのちょっとした知識を教えてくれる、 キュートなママキャラクタである。 一度お試しあれ。
あなたのメル友、本当に人間ですか?
本文中のリンク・関連リンク:
- 人工無脳に関する優れた考察 「人工無脳は考える」
- 最近登場した人工対話サービス
- プロックスジャパンの 「プロデュースフォーユー」は 人工知能感性サーバーを名乗っているが、 これはちょっと大袈裟
- ニフティの 「チャッとも」 の三匹のキャラクタを見ると、まだまだ子供だましの感は否めない
- 「シーマン」はドリームキャストと共に消えゆくのであろうか
- 東北大学と三菱総研が実験サービスをしている 障害・不登校相談室「ほっとママ」、 その中に学芸大学藤野先生による人工無脳チャット・カウンセリング 「ぼっとママ」 がある
- 人工無脳のプログラム達
- 人工無脳レビューに数多くのプログラムの紹介がある
- チャットソフトウエア「ゆいちゃっと」に組み込む人工無脳スクリプト 「ゆいぼっと」
- イライザ(ELIZA)の中身を知りたいなら、 Perl 用モジュール Chatbot::Eliza がある。 Emacs が使えるなら M-x doctor が簡単 (英語)
- 現代版イライザ AOLiza は AOL のインスタント・メッセージ・サービスに登場したが、 その場で気づいた人はほとんどいなかったという。 逆にまったく予測できないことを話す Biz の人気も高い (英語)
- デスクトップ常駐型の 「ペルソナウェア」 はインターネットから新しい話題を手に入れユーザを飽きさせない 新しい世代の人工無脳だ。