空港の待ち時間の悩み

混雑している空港は行列だらけだ。日本人はこれからも文句を言わずに行列に並ぶ忍耐力が試されるのだろうか。

保安検査に20分も待ちたくはない

空港で最も時間がかかる手続の代表格は、保安検査だろう。

関西国際空港では、行列の待ち人数をカウントして保安検査通過にかかる時間を予測して表示するシステムを導入している。1行列に20人ほどが並んでいると「Less Busy」と表示され、通過に11分から20分かかる。

米国運輸保安局(TSA)は、保安検査にかかる時間をスマホの位置情報などから知らせるAppを提供している。保安検査に20分かかるのは“通常”扱いだ。

入国に45分かかるのは普通なのか

入国手続はさらにひどい。英国ロンドンヒースロー空港では、EU域外からの入国者95%を45分以内に入国させることを目標に掲げている。しかし概ね2時間の待ち時間が常態化してしまっているという。最大待ち時間は2.5時間にもなる

国内では混雑時の入国手続の最大待ち時間は約1時間程度にとどまっている。それも訪日旅客数が倍増すれば、行列のできる空港ばかりになるだろう。

ここまで入国手続に時間がかかると、レオナルド・ダ・ヴィンチ空港にツアー団体客を行列の前方に割り込ませることを生業にしている凄腕ガイドがいるのもうなずける。

しかし将来は、そんな凄腕ガイドが失職してしまうかもしれない。旅客の待ち時間、チェックインから搭乗ゲートまでの手続を効率化して時間短縮を図りつつ、安全も維持するための取組(FAST TRAVEL)が航空会社、空港会社、国土交通省などの連携により進められているからだ。

出発ロビーから出国まで10分、降機から到着ロビーまで30分が目標

待ち時間を短縮する利便性向上のためのIT化ソリューションは充実してきている。

  • 【チェックインの短縮】旅客が自らチェックインして手荷物を預ける機器を導入することにより短縮化が図られている。(航空会社や空港会社により導入)
  • 【保安検査の短縮】3名同時に手荷物検査を行うことができるスマートレーンが試験的に導入されている。これで保安検査時間が30%=6分程度短縮する。(空港会社などにより導入)
  • 【出入国審査の短縮】羽田空港国際線ターミナルには、パスポート顔写真の本人照合により入国審査を行う顔認証ゲート(日本人帰国者のみ)が導入されている。パスポート発給時と顔が大きく変わっていなければ10秒程度で審査が終了する。(法務省が導入)
  • 【税関検査の短縮】日本に向かう機中でスマホから事前申請を行うことにより税関ゲートを通過できる「電子化ゲート」の実証実験が開始されている。税関検査が50%=15秒程度短縮する。(財務省が導入)
  • 【旅客導線全体の短縮】チェックイン時に顔を撮影してパスポート、搭乗券と紐づけておき、保安検査、出入国審査、搭乗ゲートでは、顔をカメラにかざすだけで通過できる顔認証パスの導入、空港内の人流をカメラで捕捉して旅客の導線を管理するシステムの導入も検討されている。(空港会社が導入)

これらの対策を打った場合、出発手続にかかる時間は10分、到着手続にかかる時間は30分まで短縮できると見込まれている。全数検査をする空港保安の性質上、短縮には限界がある。しかも、航空会社・空港会社から各省庁まで、各種手続を担当する組織もバラバラなため、個別に時間短縮を図っている点が課題だ。

「待ち時間を感じさせない」ことが最大の時間短縮になりうる

羽田空港国際線ターミナルでは、ターンテーブル前で手荷物を嗅ぎ回る検疫探知犬のニール号とバッキー号が働いている。動植物検疫が必要な手荷物を嗅ぎ分けることが仕事なのだが、旅客はみな自分の預入荷物が早く出てこないか待っているので、手荷物を嗅がれていることに気づかない。

フランクフルト空港の保安検査場で手荷物をすべてひっくり返されてうんざりしていたとき、ドイツ人検査官が突然日本語で話し始めたことがある。意表を突かれただけでなく、少し嬉しさを感じて、保安検査の時間が多少は短く感じられた。

こんなところにヒントが隠されているように思う。

例えば、入国審査をしている間に税関検査なども同時に行うことができないか。

空港会社が顔認証パスとパスポートの紐づけを管理し、認証情報を提供して複数手続を同時に進めることができないか。

旅客属性のデータにもとづいて旅客の母国語や慣習による手続を提供できないか。

このような待ち時間の短縮と待ち時間を感じさせないことを実証するとすれば、空港運用の効率化と旅客の利便性の両立を目指している空港会社が適任だ。待ち時間を感じさせない、すなわちおもてなしの心が試されている。