AIコーディネータと歩む充実した暮らし

「所有から利用へ」の潮流に乗り、サブスクリプション(課金型)ビジネスが拡大している。購入することが当たり前だった衣服家具自動車など、幅広い分野で「1か月〇〇円」といったサービスが登場している。変わったところでは、コンサートやライブを定額で提供する試みも行われている。

課金型ビジネスはモノからIT、そしてモノへ

サブスクリプションビジネスの源流を辿ると、「購読」という日本語訳がある通り、もともとは新聞・雑誌の定期購読である。割引価格で年間契約することにより、利用者側にはお得感を、提供者側には安定収入をもたらす。 その後、オフィスの複合機などに拡大し、さらには携帯電話のゲームや音楽・動画配信といったITサービスでも用いられるようになった。ITサービスでは利用状況の計測や決済が容易なことも普及の一因と考えられる。近年は、冒頭の衣服、自動車のようにこれまでは所有が前提だった物理的なモノへの適用が進んでいる。

表1. モノのサブスクリプションサービス(例)
商品サブスクリプションサービス例
衣服メチャカリ:月額5,800円で好きな洋服が借りかえられる。気に入った洋服は買取可能。
Stitch Fix:一定の頻度(数週間~3か月、または都度)でスタイリストが選定した服が5着送られてくるので、購入するか返送するかを選択。利用料は1回あたり20ドルだが、購入すればその分割り引かれる(実質無料)。
ワイシャツワイクリン:月初に20枚のワイシャツが届き、月末に返送する。定められたグレードのシャツから好みの柄を選択。月12,800円~。
家具KAMARQ(カマルク):月500円程度から好きな家具を借りられる。好きな時に別の色や新品に交換可能。
自動車NOREL:同一グレード内であれば、90日経てば別の車に乗り換え可能。月19,800円~。
Bloomee LIFE:月1回または2回、花屋にて選定した花を宅配。1回500円~。

もうひとつの流れ:能動型から受動型へ

もう一つの流れとしてサブスクリプションの質の変化がある。それは「能動型から受動型へ」という流れである。

音楽では、「1曲〇〇円」という課金体系から、「1か月〇〇円」という定額のストリーミングサービスが主流となっているのはご存知と思う。ストリーミングサービスでは自分で曲を選ぶことも可能だが、サービス提供元が作成したプレイリストや自身の視聴履歴に基づくレコメンドに任せることもできる。好みに合わなければスキップできるし、「ながら」視聴であれば多少好みとずれていても気にならない。

一方、物理的なサービスにおいては、現時点では自分で欲しい商品を選ぶサービスが主流だ。モノの場合は自分の好みに合わなくても音楽のようにスキップはできず、返送か廃棄せざるを得ない。利用者に選択させればそれを防止できる。しかし、これからはWeb上のレコメンドのように、欲しいであろう商品が勝手に送られてきて、使った商品の代金だけ支払い、使わなかった分はそのまま送り返す、というスタイルが増加するだろう。サブスクリプションの形態を採れば、継続的に同一顧客のデータが蓄積でき、好みを把握しやすくなるためだ。

実際、米国には洋服をスタイリストがチョイスして送ってくれるサービスがあるが、本サービスの裏側では、顧客の利用状況をAIが分析して好みを判定し、スタイリストにおすすめすべき服装をレコメンドをしている。スタイリストはAIのレコメンドを参考にしながら最終的に顧客に送付する服を選択するのだ。同社は多数のスタイリストを確保しているものの、それでも一人のスタイリストが担当する顧客は多く、すべての顧客の好みは覚えきれない。そのため、こうしたAIの支援が役に立っている。

AIは生活を豊かにする新しいチャネル

洋服を例に挙げたが、食事においても食事の好みや過去の献立に応じて送ってきてくれる宅食・食材宅配サービスが考えられる。住の分野では、季節の変わり目にカーテンやソファ等の家具のコーディネートをしてくれ、模様替えの業者まで手配してくれるかもしれない。

このようなサービスばかりとなると楽しいのか?自分で選ぶ楽しみがなくなってしまうのではないか?ありきたりのパターンになってしまうのではないか?そのような問題意識もあり、時々目新しいものをレコメンドする研究も進められている。また、単体のサービスで閉じるのではなく、それぞれのサービスやリアル店舗を連動させると、ときには敢えてリアル店舗を訪問することを促したり(実はリアル店舗に好みの商品がある)、あるいは模様替えに合わせて季節感のある花や食事を宅配することも可能になる。

これを「AIに支配されている」とマイナスに捉えるか「生活の満足度が上がる」とプラスに捉えるかは議論が分かれるところだろう。しかし考えてみれば、私たちはこれまで、友人知人の口コミ、テレビ・雑誌等のメディア、最近では比較サイトやSNSから新しい情報を仕入れてきた。AIも、情報の取捨選択を自動的に行っているという違いはあるにせよ、これらの情報収集手段のひとつと捉えてもよいのではないか。私たちが接する情報の量がますます増加しているいま、AIをうまく使い、情報の取捨選択や判断にかける時間を、生活をより楽しむ時間に割り当てる、という選択もありえそうだ。