スマートダストの実現と悪用を見据えて

スマートダスト(賢い塵)とは、米粒よりも小さなセンサーを世界中にばらまき、都市、自然、個人のデータを収集して役立てようという考え方に基づいており、光、温度、振動、磁気、化学物質等、センサーで取れるデータが収集の対象となる。このスマートダストが、ガートナー社から毎年出されている、技術の位置づけを示すハイプサイクルで今年も末端に現れた。黎明期のはしり、という位置づけだ。かつては2003年、最近では2016年も同様の位置づけにあり今さら感もあるが、実は話題も増え中身も変化している。

スマートダストは20年間黎明期ではあるが、実体が構想に近づいている

スマートダストは、1990年代に米国の研究機関で提唱された考え方であり、当時の実装技術である無線センサーネットワークについては日本国内においても認知されている印象がある。当時は、一個あたり数万円もする専用のミニチュア機器に専用OSをインストールして、しかもバッテリーを気にして、という状況であり、スマートダスト本来の姿の実現までに先はまだ長いと感じられた。ミニチュア機器自体は、国内ではIoTが活況であり、例えばTWELITE DIPをお手軽に入手できる等、新たなアイディアを生むためには良い流れにある。

今なおハイプサイクルの定位置に居座る理由は、専用のミニチュア機器ではなく、食塩の粒サイズのレンズ等、小型化したセンサーへの期待だろう。また、スマートダスト研究で著名なカリフォルニア大学バークレー校の研究者たちが「ニューラルダスト」という人の神経や筋肉、内臓をリアルタイムでモニタする仕組みを近年立て続けに公表していることもあるだろう。SF映画等でお目に掛かる、脳と機械のインターフェイスになり得る、という期待だ。一方で、スマートダストを既に実用化して、思考の監視に使おうとしている国や組織がある、という記事もネットでは話題になっている。この真偽はさておき、スマートダストの実用化とそれに伴う悪用が懸念されている例といえる。

想定外の使い方はギーク(geek)に聞く – Improvプロジェクトの発想に学ぶ

スマートダストが黎明期を脱するのかどうかと合わせて注目したい動きとして、米国のImprovプロジェクトがある。Improvは、スマートダスト研究のスポンサーでもある米国国防総省の機関DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)のプロジェクトだが、日常の技術をどのように高度な形で活用できるかの探求をギークな人々に委ねている。用途が軍事である点は国の事情にもよるところではあるが、高度な活用と悪用への対策をギークの力も借りて行う試みは興味深い。ホワイトハッカーにサイバーセキュリティ強化策を求める昨今の傾向とも類似している。Improvは日常生活の中にある機器の活用だが、素材さえあればどの分野でも応用できる考え方だ。

オープンなスマートダストに

スマートダストには、環境モニタリング等の民生利用も当初から期待されていた。例えば、防災や防犯において、既存の民生技術と組み合わせて「次世代型○○」として売り出すビジネスも出てくるだろう。また、すでに懸念されているものに加えて、それをさらに上回る悪用を考える組織や個人も出てくるだろう。スマートダストを保有できる組織や個人が限られるほど、一般の人から見てその懸念は高まる。Improvプロジェクト同様、活用や悪用への対策のアイディアを生み出すギークに、実物を触れて考えてもらうことでリスクを洗い出すことがハイプサイクルを先に進む中で必要ではないか。そのためにも、最近のスマートダストの廉価版が例えば秋葉原でも買えるくらいになるよう、万年黎明期という印象にとらわれずにもり立てたい。