新しいユーザインタフェースは安全性にも配慮を

先日、明治神宮外苑で開催されていた「東京デザインウィーク2016」において、触ることができる展示物の照明に使われた白熱電球の熱が原因で火災事故が発生し、死亡事故につながった。また、自動ブレーキの体験試乗会においても、説明不足や試乗した一般客の操作ミスにより、正しく停止せずに壁に衝突するという事故もあった。展示会では、新しいデザインやユーザインタフェース、機能を見せることに注力されており、安全性が必ずしも担保されていないものもある。研究者や開発するエンジニアが新しいモノを見せたいという欲求があるのも理解できるが、やはり開発者が限定された実験室で動かすものと、一般の人が操作、体感できるものの違いについては細心の注意が必要だろう。

VR/ARは子どもの視覚に悪影響

前回のコラムでは、VR/ARを取り上げた。その中でも3D映像を用いることによる視覚の安全性について、規制や標準化が検討が行われていることを示した。実際に、PlayStation VRの対象年齢は12才以上となっており、12歳未満の子供の利用は禁止されている。両目に入力された像を脳内にある立体視細胞で融合しており、細胞の発達に影響を及ぼす可能性があるとされているためである。また、ニンデンドー3DSは裸眼立体視機能を備えているが、6歳以下の子供には3D機能を使わないように注意を促している。

VRによる視覚への影響が身体全体に影響を与える場合もある。いわゆるVR酔いである。日常で記憶している感覚とVRを通じて得られる感覚が一致しないことに対する反応として、脳が防御することで酔いが発生すると考えられる。例えば、一人称視点のゲーム(First Person Shooter(FPS)等)の場合、ゲーム内の目線や地面の傾きと、頭や身体の傾きから想定される感覚とが一致しないことが影響していると考えられる。

展示会やデモ用として、新しいコンテンツやHMD(ヘッドマウントディスプレイ)等の新しいインタフェースを体感してもらうためには、初めて使う人でもVR酔いが発生しにくいものにするなどの安全に配慮することが必要だ。こうした場面でトラブルになれば、ネガティブな体験を与えることになり、普及の障害になりかねない。

自動車用ブレーキのインタフェースに誤動作、誤操作の可能性

衝突防止のための自動ブレーキを体感してもらうデモも、様々なところで行われている。動作条件に合わないケースや、試乗者の操作方法への理解不足から、事故に至っているケースもある。確実に作動するように、初めて試乗する人に対する事前説明や環境整備が欠かせない。

また、高齢者の操作ミスによる相次ぐ自動車事故の報道がなされている。多くは、ブレーキとアクセルの踏み間違えだと思われる。一方で、最近の車両は、手で操作するギアのシフトの操作系が変化しているからだという指摘もある。例えば、トヨタ社のプリウスでは、シフトレバーに表示されている「B」がブレーキという意味が理解されずに、バックと間違えている可能性がある指摘もある。ただし、最近の車両には「ブレーキオーバーライドシステム」が搭載されることになっているため、アクセルを誤って踏んで暴走したとしても、ブレーキを踏めば必ず停止するように設計されている。そのため、ブレーキを踏み間違えなければ安全だ。しかし、そうした状況でも駐車場内で事故が発生していることを考えると、やはり踏み間違えが原因だろう。駐車場内での後退や段差を乗り越えるような場合には、ペダルを踏み間違えないように左足でブレーキを踏むことをお勧めしたい。

触れるパーソナルロボットにも注意を

日本科学未来館や店頭の受付ロボットとして使われるPepperなど、人体に近いサイズの大型ロボットに触ることができる環境が増えている。そのような環境では、ロボットが物理的に動く際の衝突や転倒などのリスクを考慮する必要がある。

そうしたリスクに対しては、パーソナルケアロボット(生活支援ロボット)の安全性に関する国際規格が定められており、リスクアセスメントをすることで安全性が担保される。ただし、製品が安全規格を満たしていることを第三者が確認する「認証」を取得する義務はないため、設置、流通しているロボット製品のすべてが安全基準を満たしているとは限らないことに注意が必要だ。

デモ環境での試験、運用方法にも留意

展示会やデモでは、新しいインタフェースやデザイン、最新技術を使った機能を見せるために、様々な製品やサービスが試験的に利用できるようになっている。しかしながら、新しい方式や慣れない操作方法であるが故に、安全性や堅牢性がおろかになっている可能性もある。

提供側にとっては、センシング技術や表現方法にICTを活用した最新の技術が取り入れたアート作品としての面白さや新しさも重要な要素である。ただし、デモの際に一般の人に使用させるのであれば、一般の人が限界を超えて操作しないようにするなどの運用を考慮する、実験室など限られた環境だけではなく、実際に稼動させる環境での試験や長期運用できるような堅牢性の高いシステムにする、フェイルセイフ、フールプルーフといった考え方も忘れないなど、提供側も一時的なデモだからと安全性を軽視しない姿勢が大事だ。