同床異夢のプログラミング教育

小中学生を対象とするプログラミング教育への注目が高まっている。今月18日~20日に開催されていた教育ITソリューションEXPOの「学びNEXT」ゾーンにはプログラミング教育用コンテンツが展示され、来訪者がひしめいていた 。最近のプログラミング教育への期待・関心の高まりを肌で感じられるイベントであった。今、教育界・IT業界から注目されているプログラミング教育について、既存の取り組みを整理しつつ、今後必要となる検討事項について考える。

「プログラミング教育」でイメージするもの

2016年4月19日の産業競争力会議をはじめ、政府によるプログラミング教育必修化への言及が増えたことにより、プログラミング教育へ注目が集まっている。そのため、SNS等でも様々な意見が飛び交っている。

好意的なものには「IT人材育成やITリテラシの底上げにつながる」と期待するもの等があり、批判的なものには「小学校でプログラマーを育てるのか」「プログラミング嫌いが増えるだけではないか」等がある。ただし発言者によって思い描く「プログラミング教育」の姿に大きな違いがあるように思える。

一般に、学校で行う「プログラミング教育」は、主に以下の3パターンに整理できる(図表1)。

図表1 公教育における「プログラミング教育」の主なパターン

「プログラミング教育必修化」と聞くと「①教科として独立」をイメージされた方が多かったのではないだろうか。ところがそれを実現するには、他教科の大幅な授業時数変更や教員育成等の大きな課題が複数あり、2020年時点での実現は困難だと思われる。

現在公開されいている文部科学省のプログラミング教育実践ガイドでも、①よりも②③のような事例が中心である。そのため、2020年に向けての検討も、②③等の比較的緩やかに導入できるものが中心になると考えられる。②③の場合は、コーディングスキルを磨くことが主目的にはならないはずだ。

プログラミング教育と教育効果

現状では学校よりも民間事業者が中心となってプログラミングを学ぶ機会を提供している。

例1:エンジニア育成を主眼とするような事業者がScratch等のビジュアル言語でプログラミングの概念を教え、次のステップとして、テキスト言語(JavaScript、Ruby等)を指導するプログラミング教室

例2:ITリテラシ向上等を目的とし、テキスト言語にこだわらず、とっつきやすいビジュアル言語を数時間~数日程度学び、最後に簡単なオリジナルゲーム創作を行うワークショップ

例3:レゴマインドストームEV3等を使ったロボット教室では、ロボットの制御プログラムの開発を通して、プログラミングを体験できる場合もある

事業者の数だけ教育目的があり、教育目的に応じて指導方法は工夫されており、”プログラミング教育の王道”はない。ただし、そのような中でも、一定の共通した教育効果は見えてきている。内閣官房による事業者へのアンケート調査では、プログラミングスキル以外にICTリテラシ、課題解決力、想像力、論理的思考力、学習意欲等の向上があると報告されている。

今後のプログラミング教育

プログラミング教育必修化の取り組みが順調に進めば、2020年の子供たちは学校でプログラミングを体験し、関心をもった子供たちが民間事業者によって提供される教室やワークショップでスキルアップしていくだろう。

ただしプログラミング教育を後押しする人々・企業等は様々な異なる夢を抱いているため、現状では必修化するプログラミング教育の定義や教育目的について共通理解のない部分が大きい。どれが正しい・悪いの世界ではないため、学校や先生が、教育目的に応じて幅広い指導方法・教材から選択できるように、準備を進める必要がある。また、以前、当コラムでも一度触れたとおりではあるが、学校の授業でプログラミングを取り入れるには、プログラミング教育がプログラマー育成ではないことを保護者や世間にアピールする必要がある。前述の2点を支えるためには、教育目的や教材、指導上の工夫等による教育効果の違いについて、今後複数の事業者や実証事業を通じて検証を行う必要があるだろう。