使い勝手を模索する電子政府

公共サービスのシステムが「使いやすい」と思っているユーザーは11%。

2006年に弊社が実施したある調査において、公共サービスのシステムが使いやすいかどうかをオンライン・アンケートで調査したところ、「使いやすい」と答えた回答者は1割強にすぎなかった。 この調査では、ATMやオンラインバンキング、オンラインショッピングといった他のシステムについても同様の質問をしており、それらは全て3割以上のユーザが「使いやすい」と答えている。「どちらかといえば使いやすい」という選択を含めると、いずれのシステムも8割を越えるユーザが使いやすさを感じていることが分かった。 ところが公共システムに関しては、「使いやすい」という回答に「どちらかといえば使いやすい」という選択を加えても55%と、公共サービスのシステムを利用したことのある回答者のほぼ半数は使いにくいと感じていることが判明。 やや古いデータではあるが、これは惨憺たる結果と言わざるを得ない。

あれから3年、ユーザの意識は、あるいは公共システム提供者の意識はどう変わったのか。

とっつきにくい電子申請システム

e-Gov 電子政府の総合窓口、納税を電子化したe-Tax、各省庁の電子申請・届出システム、オンライン申請システム、エトセトラ。 探してみると、電子申請システムは現在すでに、かなりの数が稼働していることが分かる。 しかし「使い勝手のよい」システムを探してみようとすると、未だになかなか見つからないという残念な状況であることも事実だ。

ひとつ例を挙げてみよう。

「e-Gov 電子政府の総合窓口」には、電子申請体験システムが用意されている。 この体験システムが、なかなか一筋縄で体験させてくれないやっかいなシロモノなのである。 ウェブサイトには丁寧なことに動作環境チェックが用意されており、体験システムを動作させることができるかどうかを事前に判定することができるようになっている。 しかしそこで問題ないという結果だったとしても、実際に手続きを進めてみると、うまく動作したりしなかったりと非常に不安定なのだ。 どうもJavaランタイムのバージョン指定に問題があり、特定のバージョンでしか動作しないようなのである(しかもそれを簡単にチェックできず、たいがい妙なエラーで終了してしまう)。

なぜこのような状況に?

今回紹介したケースは特異なものと信じたい。 しかし多くの電子申請システムがウェブアプリケーションとして提供されていること、そしてそれらのシステムにおけるユーザ端末側はJavaで実装されているものが多いことを考えると、同様の問題が数多く発生している可能性は否めない。

また、準備の煩わしさもユーザビリティを極端に低下させている一因である。 ほとんどの電子申請システムでは、申請者と申請先の正当性を確認するために電子署名用証明書の導入を求めている。 しかし多くのユーザは電子証明書に馴染みがないことも事実。 オンラインバンキングやオンラインショッピングなど、ある程度のセキュリティが求められるウェブサイトでもユーザ側に電子証明書を要求する例はほとんど無い。

なんとか環境を整えて体験できた先の体験システムだったが、ユーザビリティの観点から評価すると辛口の採点を付けざるを得ない。 何となれば、紙の申請書そのままの入力フォームであり、細かな字は潰れていて読めなかったり、電子的に入力する際の工夫がほとんど施されていなかったりと、時流に沿わない入力画面になっているからである。 アクセシビリティへの配慮もなされていない。

実はこのような状況になるのは理由がある。 それは、電子申請システムはまだ限られた人々が利用するものだからという理由である。 使い慣れた申請書に似せたほうが業務が捗るという事情である。 「法律によって定められているから」という事情もある。

工夫しているところもある

問題が明らかになるにつれ、このような問題を解決していこうという流れがようやく出てきた。 最近の電子政府システム構築では、Javaで固定した画面を作るのではなく、一般的なウェブアプリに変えていこうという機運がある。 また埼玉県が提供する申請システムのように、PDFをベースとした、よりユーザフレンドリーな申請システムも存在する。

電子政府の普及率を向上させるためには、ただ単に手続きを電子化しましたというだけでは不十分である。 電子政府の普及にあたっては、今後、セキュリティやユーザビリティといった要件がもっと注目されていくだろう。 実際、いまちょうど「電子政府ユーザビリティガイドライン(案)」に関するパブリックコメントが募集されている(2009年6月9日まで)。

今後の更なる普及には定形用紙信仰や法律の呪縛から解放されることも重要である。 法律改正といった根本的なところも含め、関係者には、柔軟な思考で施策を検討されることを望みたい。

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