変わりつつある大学の情報化

教育機関での情報化の遅れはこれまでも指摘されてきているが、 国立大学の独立行政法人化の動きなども受けて、 大学でも、ようやく、本格的に情報化の推進が行われるようになってきた。 今回は、大学での情報化の動向についてみていくことにする。

大学での情報化の壁

企業ではITを活用した情報化が進み、その投資は当たり前のこととなりつつある。 しかし、企業に人を輩出する大学では、研究レベルでのITの活用を除けば、 学内の情報化については、企業に比べて遅れているというのが実態だ。 これには、利益の獲得という目的に向かって、CIOを中心にトップダウンで 行われる情報化の進め方が、人材を育成することが目的である大学の理念に なかなか馴染まないという実態がある。

また、情報化の推進は、教員が本業の片手まで行っていることが多く、 本格的な情報化の推進を行おうとすると、マンパワーが不足するという 現実も大きく影響している。国公立大と私立大学で多少の差こそあれ、 大学の組織内にCIOのような教員でもなく職員でもない新たなポストを つくることは簡単ではなく、大きな悩みとなっている。

更には、学内での情報部門の地位がまだまだ確立されておらず、 他の部門の配下の組織となってしまうことが多いために、 情報化に関する予算を継続的に獲得することが難しく、 メンテナンス費用やライセンスの費用などの恒常的な費用を工面が しづらいという事情もある。

しかしながら、ここ数年の間は、国立大学の独立行政法人化の動きなども受けて、 経営という視点を無視できない状況にになり、大分状況が変わりつつある。

形になって現れつつある情報化の効果

ITの導入による効果のうち、もっとも分かりやすいものは、経費節減などの 数字で明確に効果が示せるものだ。 大学では、学部・学科の独立性が強いために、全学で、ハードウェアやソフトウェアの 導入状況を把握するということはこれまでは行われてはいなかった。 しかし、全学での経費節減が意識されるようになってことを受けて、 情報資産の洗い出しが行われるようになり、包括ライセンス契約などの導入が増えてきている。

ベンダー側でも、このような教育機関でのIT投資の状況を受けて、 マイクロソフト社によるキャンパス・アグリーメントのように新たなサービスを提供するようになってきている。 この結果、、規模の大きい大学ではかなりの経費削減が実現できることとなり、 結果として、情報部門の地位が高まり、情報化への投資が進むようになってきている。

また、学生の端末利用の履歴データから、学内の端末の利用状況を把握し、 使われていない端末を削減し、その費用を別の有意義な学生サービスに割り振る ということも行われるようになっている。 学内のIT化の結果、さまざまな履歴情報が蓄積されるようになり、 学生へのサービスとして、どこにお金を掛けるべきかが把握できるようになってきた。 例えば、利用されていない端末を削減し、その費用を使って無線LANの環境を整備するなど、 より学生のニーズに合わせた機器の整備が可能となる。 このような見える化は、効果的に投資を行ったことを説明する際に非常に効果的であり、 今後、学内に蓄積されたデータを活用して投資の効果を説明する動きは、 よりいっそう進むであろう。

教育効果の把握への挑戦

これまでに述べてきたことは、IT投資をいかに効率的に行うかということだが、 大学が教育機関である以上は、教育効果を把握するためのITの活用も重要な視点となる。

一部の大学では、学生の成績データと履修履歴の追跡調査や、論文数、研究費の推移の把握など、 さまざまな試みが始まっている。 大学へのICカードの導入が進む中、学内に蓄積されているデータは、 今までとは比較にならないほど多くなってきている。 学内のIT機器がセンサーの役目を果たし、さまざまなデータを蓄積することによって、 これまでは感覚としてしか分からなかったことが、 把握できるようになってきていることは事実だ。 各授業毎の学生の履修状況の実態、図書館の利用状況の実態など、以前とは比較にならないほどに 正確に分かるようになってきている。

もちろん、教育の効果を明確に数字で表すことは難しい。 しかし、さまざまなデータを組み合わせることによって、教育の効果を把握することは 可能であろう。このような試みは、教育を最大の目的とする大学でこそできることであって、 その成果は、企業の人材育成に応用できる可能性を秘めている。 今後、教育の効果をどのように把握するか、について、大学が主導となって さまざまな試みが行われることを期待したい。

  • 国立大学の独立行政法人化の概要
  • キャンパス・アグリーメントの詳細
  • 本文中の用語の説明
    • キャンパス・アグリーメント:マイクロソフト社のボリュームライセンス契約の一形態で、従来のライセンスのようにパソコンの台数に対してライセンスを発行するのではなく、契約機関に所属する利用者(教職員・学生など)の人数に対してライセンスを発行する。
    • CIO:chief information officer の略。企業の経営理念に合わせて情報化戦略を立案し、実行する責任者のことで、「最高情報責任者」と呼ばれる。