憧れのシリコンディスク

パソコン業界では最近、ソリッドステートドライブ(SSD)が注目されている。従来のハードディスクドライブ(HDD)の代わりに SSD を搭載するノートパソコンが発表されたり、大容量製品のロードマップも充実してきている。今回は SSD の将来性を考えてみる。

SSD とは?

SSD とは、HDD が磁気ディスクを使うのに対して、フラッシュメモリを使ったディスクドライブである。HDD では磁気ディスクを回転させつつ磁気ヘッドを移動して情報を読み取るが、SSD ではこうした可動部が無いのが最大の特徴である。この特徴ゆえに、衝撃などに強く、またデータ転送速度も速いという長所がある。

速度面について現時点での標準的な HDD(320GB/7200rpm)と SDD(32GB)でもう少し詳しく比較してみよう。ビデオ録画のように大容量データを連続してシーケンシャルに書き込んだ場合などは、HDD の方が2倍以上速い。一方、OS やアプリケーションの立ち上げなど、ランダムな読む込みが主な場合には SSD の方が 1.5 倍程度速い。ただし、これはあくまで現時点での仕様を比較したものであり、SDD の今後の大容量化に伴って、HDD よりもより高速になる可能性は大いにある。

SSD の歴史は、実はとても古い。HDD がまだ低速で RAID 等の高速化技術が未成熟であった時代に、SSD は「シリコンディスク」の名前で呼ばれ、憧れの的であった。当時としては大容量のデータを扱う場合に、プログラムをいかに工夫してもボトルネックは HDD の読み書き部分であり、プログラムを変更することなく飛躍的に高速化のできるシリコンディスクは魔法の箱のようなものであった。しかし、シリコンディスクはその性能に相応して高価であり、よほどのことが無い限りは高嶺の花であった。著者は先日、某官公庁のレガシーシステムを見学する機会があったが、巨大なホストマシンに並んで鎮座している巨大な SSD システムを見て、高価なシステムならではの光景だと感心した次第であった。

SSD は近年、非常に身近な存在になってきている。デジカメに使われる SD カード等の記憶媒体も SSD の一種である。当初は容量が小さく用途も限られていたが、大容量化と低価格化が進むにつれて、例えば家庭用ビデオカメラの媒体としても、HDD や DVD と競えるレベルになってきた。

パソコンと SSD の親密な関係

SSD の大容量化に伴って、家電製品ばかりではなく、パソコンとの親和性も高まってきた。現在のパソコンでは、メモリが1〜2GB、HDD が 100〜200GB というのが標準的なスペックだろう。これに対して、SSD は32GB程度のものが実売5万円程度で購入できる。これなら少々小さめではあるが、HDD の代わりにSSD でも代替できる。最近では、HDD の代わりに SSD を搭載したノートパソコンの発売・発表が相次いでいる。HDD 搭載製品と比べると、耐障害性の向上とともに、軽量化も図られており、まさに理想的なノートパソコンに近づいているといえるだろう。

SSD 搭載パソコンの課題は価格と寿命である。安くなってきたとはいえ、SSD の容量あたりの単価は HDD と比べると数倍高い。また、SSD に使われるフラッシュメモリには書き込み回数に制限があるため、頻繁に書き込みが一部領域に集中すると、製品寿命が短くなる可能性がある。

しかし、たとえばノートパソコンに話を絞ってみると、製品寿命はせいぜい3年程度だろう。書き込みが頻繁に行われる領域を分散させることはソフトウェア的にも可能なので、書き込み回数の制限に関しては、それほど気にしなくても良さそうだ。

容量と価格についても、将来的には HDD のレベルに近づいていくことが予想される。容量に関して言えば、256GB 程度の製品が今秋にでも発売されるようだ。ただし、この 256GB の製品は発売当初は100万円程度と非常に高価らしい。ただし価格に関しては、SD カードの価格がデジカメの普及とともに急激に下落したのと同じく、搭載製品が増えるに従って安価になってゆくことが容易に予想できる。

エンタープライズシステムへの普及

今の流れでいくと、SSD はコンシューマ製品から普及してゆくことが予想されるが、実はエンタープライズ向けのシステムでも有効であると筆者は考えている。確かに、RDBMS が扱うようなテラバイト(TB)級の容量は SSD ではまかなえないが、OS やミドルウェア、アプリケーションソフトを格納するシステム領域の格納デバイスとして、SSD は最適なのではないだろうか。システムファイルのランダム読み込みが高速なことに加えて、消費電力の面でも HDD よりも低いことから、今後のエンタープライズシステムの一つのトレンドになりうる潜在力は十分にある。

エンタープライズ向けに SSD が訴求するために不足しているものは、稼働実績という名の信頼性だと考える。そのためにもパソコンなどのコンシューマ製品で十分に実績を積んでゆく必要がある。また、SSD を使った RAID システムのように、エンタープライズシステムに求められる高信頼性システムへの発展も必要かもしれない。システムインテグレータが自信を持って推奨できるだけの信頼性を勝ち取れた暁には、あらゆるエンタープライズコンピュータに SSD が組み込まれていることだろう。