第二の人生とIT

暖冬のせいかあまり実感がないが、今年も残すところあと5日となった。 よいニュースも沢山あったが、いじめをはじめとして、様々な社会問題が浮き彫りになった年で あったようにも思う。

来年は2007年問題の年ということで、社会的に大きな変化が起こる年になると思われる。 定年を迎え、第二の人生を歩み始める方も多いかと思うが、 この第二の人生という言葉から、「Second Life」という言葉が思い浮かんだ。 単純に英訳しましたという話ではない。 インターネット上に存在する「Second Life」 という仮想世界のことである。 この仮想世界の日本語版が2007年に公開される予定となっている。

セカンドライフ

「Second Life」とは、インターネット上の多人数同時参加型オンラインゲームのことである。 特に決まった結末のない仮想世界で、ゲームの参加者は、空を飛ぶ、 空想世界の乗物を運転する、様々な建物を建てるなど、何でも好きなことができる。 ゲームに参加している人々が、仮想世界で日々の生活を送っていくこと以外に決まりがないため、 結末はなく、参加者がいる限りは永続的に続くこととなる。 ゲームというよりは、社会シミュレータと言った方が適切かもれない。

この「Second Life」で特徴的なことは、通貨を介して仮想世界と現実社会が繋がっていることだ。 例えば、仮想世界で事業を起こして富を得ると、それを現実社会の通貨に換金することができる。 極端なことを言えば、現実社会の仕事で稼げなくても、仮想世界の仕事で稼ぐことができれば、 現実社会で生活できるということも起こり得るのだ。

もちろん、起業し実際に事業を運営することは、たとえ仮想世界であっても簡単なことではない。 そこに目を付けて、会計やビジネスコンサルティングの分野で活躍してきたコンサルタントが 仮想世界の起業家のコンサルティングを行うという新たなビジネスの動きも出てきている。 今後も、架空世界の特徴を生かした様々なビジネスが生まれてくるものと思われる。

仮想世界の新たな活用方法

この「Second Life」で、実は開発・運営を行っている会社が予想もしなかったような 利用のされ方が増えてきているという。
興味深い例を紹介しよう。

アメリカの大学では、授業の一部を仮想世界で行う試みが始まっている。 現実の世界での講義とは雰囲気が違ったものとなることから、学生の隠れた才能が 発掘されることがあるのだという。 現在は、情報系の授業でゲームを題材とした馴染みやすいものでしか行われていないようであるが、 工夫次第では、教育や人材育成といった分野での応用は十分に考えられるのではないであろうか。 現在社内教育などでよく行われているロールプレイ形式の研修などは、仮想世界で 行った方が様々な工夫を盛り込むことができ、より効果的に研修を行えるように感じる。

また、虐待を受け避難施設に収容された子どもたちが社会に復帰できるきっかけ作りとして、 このゲームを活用するという試みが行われているという。 そこでは、ゲームへの参加を通して、子どもたちに、人と協力して物事に取り組む、 チームを作り活動していくといった社会的技能を教えている。 現実の世界でいきなり普通の人と交流を行うことはかなりハードルが高いと思うが、 仮想世界では比較的容易に交流できることは想像できる。 仮想世界の活動を練習段階とみなして、現実の社会へ入るトレーニングとして活用する という考え方は効果的と思う。まさに、社会シミュレータとして活用できるわけだ。

このように、現実世界では困難なことを実現する為の1ステップとして仮想世界を 活用することは、非常に有効なIT活用法になると思う。 現実世界での様々な制約に縛られている人を解き放ち、新たな才能を引き出す 可能性を秘めている。

現実社会と架空社会の調和への期待

さらに進んだ活用の事例として、仮想世界を利用して、脳性麻痺患者が普通の人と 対等に他者との交流や様々な活動を行う試みも行われている。 現実の世界であれば、障害に起因する様々な障壁から、このようなことを行うのは極めて難しい。 しかし、仮想世界であればこれらの障壁を最大限取り除くことが可能となる。 ITによる障害を持つ人の支援ということは長年にわたり叫ばれてきたが、 これまでは障害を持つ人を健常者に近づけるという発想でITの活用が検討されてきたように思う。 これに対して仮想世界の活用は、ITを駆使することにより健常者と障害を持つ人が共に歩み寄った社会を作り出し、 そこで障壁をなくした交流を可能にする新たな発想での支援となり得るのではないだろうか。

しかし、ここまできてしまうと、ゲームという基盤の上で行う支援としては無理があると感じてしまう。 例えば、上記の仮想社会の活用を発展させると、障害を持つ人の経済的な自立を促進することも考えられる。 障壁の少ない仮想社会の仕事で稼ぎ、そのお金を現実社会の通貨に換金して 経済的な独立を図るということも考えられなくはない。 しかし、ゲームの世界では、裏技などを駆使して荒稼ぎをしようとする人がいて、 そういった人から障害を持つ人を守る術は、ゲームを出発点としている仮想社会には存在しない。 あくまでも娯楽であるのだから、ここは致し方ない。 より一層の発展には、公共性の高い仮想世界が構築されるとか、仮想社会上で地域通貨を使うといった 新たな動きが必要になると思う。

しかし、長年課題となってきた現実社会の問題を、ITの新たな活用によって 解決しようとする動きが出てきたことはとても嬉しいことだ。 これまで仮想世界というものは、現実社会とは関係のない怪しいものとして 捉えられてきたことは事実であろう。 しかし、その仮想世界と現実社会に繋がりを設けて調和を図れば、 新たな社会基盤の一つとなり得る可能性は十分ある。 近いうちに大きな成果は得られないにしても、長い目で見れば大きな変化が起こるかもしれない。 今後の動向を長い目で見ていきたいと思う。