イベント用ネットワーク構築の裏側

最近、展示会やイベントでネットワーク準備のお手伝いをする機会が多くなった。 地理的に離れた場所をネットワーク接続するには、 数多くの中継点や機器を経由しなければならないが、 どこか1箇所でも設定が間違っているだけで正常な通信はできなくなる。 すべての設定が最初からうまく行くはずもなく、 トラブルの原因をつかむため、悪戦苦闘するケースもしばしばだ。

ネットワークが満足に使えるようになるまで、 実際にはどんなことが行われているか、今回はその一例を紹介したい。

回線の手配

遠隔地をネットワーク接続するためには、 まず2地点間をつなぐ回線を手配しなければならない。 そのためには通信事業者の提供する、 メトロイーサブロードバンドアクセスなどのサービスを利用するわけだが、 開通の1ヶ月から1ヶ月半前に発注しておかないと、 本番に間に合わなくなる。 無理なお願いをすれば、2週間程度で開通する場合もあるが、 その後の設定調整を考えれば、やはり1ヶ月前には手配しておくのが無難だろう。 発注後は指定された日の回線工事に立ち会って、 開通日以降に初めて利用できるようになる。

注意しなければならないのは、契約期間と通信コストである。 たとえ数日間のイベント用の回線であっても、 このようなサービスは1年契約が前提である。 したがって、毎月決められた額の利用料を1年間払い続けるか、 高額の違約金を支払って途中解約するかの選択を迫られることになる。

つながるまでがひと苦労

回線の手配をする一方、ネットワーク構成を決めるという、 最も重要な作業も並行して進めなければならない。 ネットワークトポロジーに始まり、ネットワーク間のルーティング、 使用するアドレスブロックや各機器へのアドレス割り当て、 さらに最近は無線LANのチャンネルやアクセスポイントの設置個所の調整も必要である。 各担当者が一堂に会してその場で決めていければベストなのだが、 数多くの組織・団体が参加するイベントではそれも難しくなり、 最終的な確定までに100通以上のメールが飛び交う羽目になる。 特に、参加団体が同じネットワークに相乗りする点、 短期間での準備や調整が必要となる点、 直前まで使用機材や出展アプリケーションが決まらない点などが、 イベント用ネットワーク固有の難しさだろう。

設定情報が決まって、ようやく実際の設定作業が始まる。 必要な設定をすべて終えたつもりで接続確認をするが、最初はほぼつながらない。 そこからいろいろな可能性をつぶすため、 遠隔地の作業者と携帯電話でやり取りしながら設定と確認作業を繰り返すが、 電波の調子が不安定だったり、途中でバッテリーが切れてしまったりと、 なかなか一筋縄では行かない。 作業を一人でする場合には、telnetでリモートアクセスして設定、確認するわけだが、 アドレス設定やその手順を間違えればその後の操作ができなくなるし、 そもそもネットワークがつながる前はこの手は使えない。

つながらないほとんどの原因は作業者の単なる設定ミスなのだが、 実際に外部と接続して初めてわかるケースもあるため、 つながるまでにはどうしても時間がかかってしまう。

つながってからも調整が必要

なんとかネットワークがつながって、pingやtracerouteの応答があればひと安心だが、 実際にはその後も細かい調整が必要になる。 例えば、スイッチングハブ(L2スイッチ)の相性が合わず、 10Base-Tと100Base-TXの自動認識の設定のままでは、 なぜか10Base-Tでつながってしまうケースを何度か経験した。 その場合には、ケーブルを接続するポートの速度を100Base-TX固定に設定する必要がある。

さらに、数Mbps程度の帯域しか使用しないアプリケーションであれば問題ないが、 DVTSRuff Systemsのような約30Mbpsの帯域を必要とするアプリケーションでは、 帯域制御(QoS)も忘れてはならない。 特にライブ中継では、スムーズな映像と音声のやり取りが必須であるため、 安定してデータ送受信が行える程度に品質や画面サイズを落とす場合もある。

実は最も注意しなければならないのは、ウィルスや不正アクセス対策かもしれない。 普段あまり使われていない機材やイベント用に急造したホストは、 とかくこの辺りが疎かになりがちだ。 組織間でセキュリティポリシーの違いはあるだろうが、 不正アクセスの踏み台やウィルス配布ホストとならないよう最低限の対策は怠らないようにしたい。

ノウハウを生かして効率的に進めたい

このように、イベントでネットワークが使えるようになるまでには、 多くのリソースを費やし、さまざまな障害を乗り越えなくてはならない。 実際に筆者が担当した部分は全体のほんの数パーセントに過ぎず、 ここに書いたごく当たり前のこと以外にも、 隠された多くの苦労やポイントがあるに違いない。

それらは担当した人間の経験やノウハウとして溜められているはずだが、 毎回メンバーが異なるためか、次の機会に生かされない場合が多いように思う。 少しでもイベントでのネットワーク構築を効率的に進めるためにも、 今後はこのようなノウハウを共有できるよう積極的に考えていきたい。

  • メトロイーサ:NTT東日本が提供する、光ファイバーを利用したイーサネットサービス。100Mbpsの契約で月額基本料が18,000円、月額通信料が123,000円。 同様のサービスをNTT西日本が「アーバンイーサ」として提供している。
  • ブロードバンドアクセス:NTTコミュニケーションズが提供するイーサネットサービス。ビル間の直線距離が1km以内の場合、100Mbpsの契約で月額基本料が280,000円から。
  • DVTS:IPプロトコルでDVストリームを送受信するソフトウェア
  • Ruff Systems: IPプロトコル(IPv4,IPv6)を用いたDV〜非圧縮HDTVフォーマット対応の非圧縮映像/音声配信・蓄積ソフトウェア
  • ライフネット:筆者が参加したイベントの1つNet.Liferium2003のネットワーク構成