在宅勤務の可能性

朝から事故で電車が止まってしまった。私はかなり郊外に住んでいるので、そ の電車以外にオフィスに行く手段がない。駅はたくさんの人でごった返し、うんざりだった。「今日は家で仕事をします。」と言えたらよかったのだが。

一般企業での在宅勤務

朝から事故は珍しいにしても、通勤ラッシュは毎日のこと。私の場合フレックスタイム勤務制度の恩恵を受けているので、ラッシュには遭わずに済んでいる が、通勤だけで疲れてしまっている人もいるだろう。 在宅勤務がその悩みを解消します。などとはよく聞くのだが、在宅勤務を実践 している人は、そうそう周りにはいない。そもそも、在宅勤務自体が制度とし て認められていない企業が多い。個人でビジネスをしている例などは別として、 企業での在宅勤務はやっと“必要な人”に認められたばかりなのだ。

この4月から IBM日立製作所 が、完全在宅勤務制度を導入した。パソコンとネットワークを活用すれば、在 宅でも充分勤務が可能であると判断してのことだ。両社の制度とも、定期的な 出社義務がない。これは大企業としては極めて珍しい。対象は育児や介護が必 要な社員である。現時点では、部署や資格などに制限があるが、その適用期間 の長さには驚かされた。育児では小学校卒業まで(IBM)、介護では必要な限り とかなり度量が広いのである。それほど“必要な人”の立場が理解されるよう になったことも画期的だ。

“必要な人”から“望む人”へ

日本テレワーク協会 によれば、2001年にオフィス以外の場所からの勤務を経験する人は、295万人に 上ると言う。ITインフラが整ったのであれば、(セキュリティや回線速度などの 問題は残されているが)“必要な人”だけに限定することはない。家の方が効率 が上がるからというのも立派な理由だ。オフィスに来ても、一人でパソコンに 向かって黙々と仕事をする一日だってある。完全在宅勤務は“必要な人”を優 先するとしても、部分在宅勤務の普及を望みたいところだ。業務の種類や、チ ームワークなどを考えれば、こちらの方が望ましいとも言える。短縮勤務やフ レックスタイム勤務の延長としてなら、そう難しくなさそうだ。さらに、この 4月から 裁量労働の適用される職種が拡大されており、在宅勤務制普及 の条件は徐々に揃いつつある。

先日、育児休暇を終えて仕事に復帰した人の話を聞いた。短縮勤務という制度も あるのだが、彼女は使っていない。ベビーシッターや家政婦を頼み、時間もな かなかとれず、非常に苦労しているという。そこまでしないとダメかと悲しくな ってしまった。やはり“必要な人”も“望む人”の一人となるのが理想なのだ。 特別扱いはする方もされる方も快適ではない。

もちろん、在宅勤務はいいことばかりではない。仕事とプライベートの区別は難 しくなる。孤独感や疎外感なども無視できない。嘘か本当かは分からないが、ア メリカでは在宅勤務者の離婚率が上昇しているらしい。何でも始終顔を合わせて いるのがいけないのだとか…。

電車が止まって、私は2時間近くも無駄にしてしまった。やっぱり損した気分である。

*テレワーク:tele-work(tele- は遠いを表す語) ITを利用した、場所・時間にと らわれない働き方
*SOHO:自宅や小規模な事業所で仕事をする独立自営型のワークスタイル