中小企業のIT武装の鍵

高まるIT戦略論と現実の中小企業とのギャップ

2000年問題をクリアし、無事、新たなミレニアムがスタートした。すると今度は、多くのメディアを通じて、「いよいよIT戦略を主軸とした日本企業の再生」という話を見聞きするようになった。気が早い所では日米逆転などという話になり、さすがに時期尚早ではと思うのだが、いずれにせよIT絡みでは前向きな話題が多い。

ところが、ある中小企業の経営者の方とそうした話をしていた所、一転、議論は急に険しいものとなった。「やっと資金を遣り繰りして2000年対応をしたのに、過ぎてみればそうしたことを世間は直ぐ忘れ、新たなIT投資を考えろ、と言う。まるでコンピュータ業者を儲けさせるために商売しているようなものだ」と、不満が吹き出してくる。最後には、「結局、彼ら(コンピュータ業者のこと)はシステムを納入してしまえば、いざ使おうと我々が四苦八苦していても、理解できないことばかり言って何も助けてはくれない」、といういつもの不満で話を締めくくる。

ITの活用に前向きに取組んでいる企業でさえこうした状況である。裾野の広い中小企業について見れば、一朝一夕には「IT戦略を主軸した日本企業の再生」という訳にはいかないのが現実だ。

アプリケーション・サービス・プロバイダの登場

アプリケーション・サービス・プロバイダ(以下、ASP)と呼ばれる新たなITビジネスが登場し、先に述べた経営者の不満をかなり解消してくれるのでは、という期待が膨らんでいる。ASPは、ハードウェアやソフトウェアを顧客に販売するのではなく、顧客が必要とするアプリケーションを、ネットワークを通じて提供する。顧客はこうしたシステムを所有するのではなく、必要な時にレンタルできるので、一般にシステムを実装する手間が省けたり、TCO(total cost of ownership)の負担も下がり、中小企業にとっては何かと厄介な保守・運用の心配もなくなる、というメリットがある。2000年問題を抱えた自社システムの取扱いに悩むこともなくなり、ある一定の品質を保証した上でシステムを運用してもらえるので、筆者が話をした経営者の見方も変わるかもしれない。

一足早く米国ではASP Industry Consortiumが発足し、そこに参加するCisco SystemsCompaq ComputerSun Microsystems等の主だったIT企業によるASPビジネスへの参入表明が相次いだ。米国調査会社によると、米国では2003年になるとASPに関する市場が、45億ドル(IDC社)とも227億ドル(GartnerGroup社)とも予想されており、ITビジネスの構造自体を変える可能性も小さくない。

日本におけるASP市場の立ち上げ

日本でも、昨年11月に「ASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパン」が発足するなど、ASPを巡る業界、そしてITベンダの動きは活発化している。ASPビジネス自体を考えている企業、ASPビジネスに自社製品の供給を考えるなど、それぞれに思惑で手探りをしているのが現状だろうが、中小企業のニーズに率直に応えられるようなASPの登場が期待される。

さらに言えば、中小企業をターゲットとするASPを目指すベンチャー企業がたくさん起業してくれば、日本のIT市場の姿も大きく変わるという気がする。良く話として聞くのは、米国の大手ITベンダが彼らの「汎用的アプリケーション」を日本で提供するASPビジネスを目指すなか、日本の大手コンピュータメーカは「顧客ニーズに全面的に応えるトータルソリューション」を提供する日本流ASPビジネスで迎え撃つ、ということ。しかし、考えてみると完全に顧客向けにフルカスタマイズするというのは殆どの場合大企業のシステムだから、これは単なる大企業の顧客囲い込みではないか。そうであるならば、日本のコンピュータメーカは、やはり、きちんと中小企業市場に向き合おうとしていないのでは、と考えてしまう。むしろ、汎用的なソリューションの組み合わせで使用料を安く抑え、代わりに中小企業が欲しがるノウハウをパッケージ化したサービスを提供してくれるASPは様々存在する方が、中小企業から見た選択の幅も広がり有り難い。例えば、中小企業がパートナーを組む共同事業のためのグループウェアや共同受注システム、販売用の電子店舗システム等を、手軽にレンタルでき、しかも情報共有や購買管理・マーケティングといったノウハウを提供してくれる。必要であれば取引先とのシステム接続も面倒を見てくれる。こうしたASPが、今後、ビジネスサービス分野のベンチャー企業の狙い目になってくるだろう。

中小企業を狙った健全なASP市場の立ち上げには、顧客の視点から見た分かりやすいASPの利用ガイドラインの整備など、実は課題は少なくない。しかし、最も大きなポイントは、中小企業からビジネスパートナーとして受入られるようなビジネスの仕組みをASP側がどのように構築するかにかかっている。